文学座の先輩中村雅俊さんがゲストに来るとラジオで演劇論を交わしていた。気遣いの徹だった。番組最終回ではラジオが終わるのが寂しいとマイクの前で泣きじゃくった。それ以来、連絡を取ることはなくなった。榊原郁恵さんと結婚、俳優として地位を築いていった。僕の勤める局は半蔵門に移転した。
ある午後、ラジオから声が聞こえた。子供向けに絵本を読む「よみきかせ」コーナーに徹が出ていた。すぐさまスタジオに出向き、何十年ぶりかで交流が始まった。主宰するお笑いの会をTFMホールでやりたいとか、ラジオドラマにトライしたいとか、郁恵さんや息子裕太さんとの朗読劇に招待してくれた。
「お別れの会」から戻ると「会で見かけて声をかけようとして、見失っちゃった」とLINEが届いた。ずいぶん久しぶりの鶴見辰吾さんで、来月会うことになった。
ここもまた徹が繋いでくれた。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中
※週刊朝日 2023年4月28日号