農業の労働は厳しくなっている
西川教授は、「農業の労働がますます厳しくなっている」と指摘する。
「一つは、農家の高齢化が進み、米作りの負荷が昔に比べて非常に大きくなってきていること。もう一つは、気候変動により夏の農作業が過酷になってきていること。夏の昼間は作業しないという例もあるくらいで、それが一層、生産体制を脆弱化させている。そんな悪循環があることは、消費者として認識しておいたほうがいいと思います」
米を生産する農家についてもっと知れば、「適正価格」についての考えも変わってくるのかもしれない。食文化研究家の畑中三応子さん(66)は、「1993年の平成のコメ騒動を思い出した」と話す。記録的な冷夏と長雨で凶作となり、国産米が品薄になり、政府が外国産米の緊急輸入に踏み切る事態となった。備蓄米の制度は、これをきっかけに1995年から始まったものだ。
米離れが進んだ理由は
「まだ食糧管理法があった1990年代前半、自主流通米の魚沼産コシヒカリなど銘柄米の価格は10キロで8千円ほど。93年に国産米がなくなったときは正規ルートを通さないヤミ米が横行、10キロ1万円超えの超高値もつきました。その後デフレなどでお米が安くなっていったのですが、そこを標準にしていま、『高い』と言っている人が多い。米農家から『時給10円だ』という訴えがありましたよね。私たちはその恩恵を被っていたんだと思います。『これまでが安すぎたのでは』という点も含めて、消費者としてお米のことを考えるいい機会になるのでは」
畑中さんは長く、日本人の米の食べ方を取材してきた。その過程で大きな変化を感じると言う。
「日本人の食生活における米の重要性が落ちてきているように思います。4、5分で茹で上がるパスタに比べて、炊飯器が進化しても米は炊きあがるまでに時間がかかる。パスタやうどんは茹でれば食べられるけど、ご飯はおにぎりは別として、基本、おかずが必要。そんな『お米の不利なところ』をカバーできずに来たから、これだけ米離れが進んでいる面もあるんでしょうね」
日本の食は「ご飯とおかず」が基本
米離れは数字にも表れている。農林水産省の資料によると、米を1人あたり年間118キロ消費していた1962年度をピークに、消費量は減少傾向。2021年度の1人あたりの年間消費量はピーク時の半分以下、51.5キロになっているのだ。
「私は日本の食文化はやはり、『ご飯とおかず』が基本だと考えています。たとえおかずがハンバーグなど洋食でも、片方の手にお茶碗によそったご飯があれば、『和食』になる。お米は日本の食文化の最後の砦だったはずなのに、そこが失われつつある。私は食文化の面からも、米の現状に危惧を抱いています」
米という食文化の未来を心配する人は他にもいる。