これぞ初席見物の醍醐味

 あやつり踊りの名手、助六が「今日は落語やらないで」と、「おいとこ」を踊ると、客席から自然に手拍子が鳴り出した。

 続くスーパー音曲師の小すみが、尺八で「富士山」を演奏、それに合わせて僕ら観客がハミングする。ちょっとした客席参加型だ。その後、小すみは尺八と琴を同時に演奏して「さくらさくら」を。二つの楽器でメインメロディを交互に弾く。素敵な色物である。
 

 トリの松鯉は、「梅一輪一輪ほどの暖かさ」(服部嵐雪)、「梅が香にのつと日の出る山路かな」(松尾芭蕉)、「梅が香や隣は荻生惣右衛門」(宝井其角)と、梅の句を三つ並べて「寛永三馬術・梅花の誉」を爽やかに読む。愛宕山の長い階段を馬で駆け上がって、将軍家光のために山上の梅花を手折ってくるという離業を見事に成し遂げた馬術名人、曲垣平九郎の晴れ姿。

「(平九郎の偉業を讃える)人々の歓声が江戸湾を越え、遠く米国・サンフランシスコまで届いた。何かあったのかと米国人が目の色を変えた。いまだに目の色が青くなったままです」

 そういえば、人間国宝の松鯉も82歳だ。正月8日の寄席で、元気な80代、4人の芸を楽しむ。これぞ初席見物の醍醐味である。

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