写真・図版(1枚目)| 演芸好きは正月寄席に行きたいのか、行きたくないのか? その真実に迫る 新宿末広亭「全興行」に通い続ける演芸評論家の記録

 仲入休憩の後にも80歳代の強者がいた。古今亭寿輔、81歳。いつも変わらぬ、毒々しいまでの派手な黄色い着物で高座に上がる。本人曰く「真夏の熱帯魚のような」。

 これだけ押しが強いのに、まくらはなぜか、いつも自虐ネタなのが面白い。

「(最前列の年配女性に)お嬢さん、よく一人でそんな前の席に座れますね。お手洗いに行くなら、私がやってる今がチャンスですよ」

 なんて客いじりをするが、何とも言えない愛嬌があるので、スレスレのところで嫌味にならない。ずっと愚痴っているから、今日はもうネタはやらないのかと思ったら、「5分余っちゃったから」と「生徒の作文」を始めた。担任の先生が友人に受け持ちの生徒が書いた作文を見せるという単純なネタなので、どこでも切れるし、延々と続けることも可能だ。「おお田中だ、確かに田中だ、後ろは背中だ」という僕が大好きなフレーズが、わずか5分の中に入っていたので、得した気分である。
 

 寿輔が自虐なら、次の小南は自慢系(?)かもしれない。
 

自虐系落語家の次は自慢系落語家

「15年前だったか、岩手の高校で芸術鑑賞教室があって、花巻東でも落語やったんだ。察しがつくでしょ? (ちょっとそっくり返って)私、大谷選手の前で落語喋ってるのよ。今の大谷選手があるのは……そういうことですよ」
 

 振り返ると、ここまで14、5組の演芸を見た。飽きることはないのだが、ちょっと尻が痛くなったなあと、座席でモゾモゾしていたら、高座の歌春が「今日、第一部から第三部まで、全部見たら何十組になるでしょう?」と言い出した。

「それだけ見ても3500円です。トリの人間国宝、松鯉先生も込みですからね。落語を聞けばストレスになります、(ハッと我にかえり)あー、いや、ストレス解消になります!」

 本当に間違えて焦りまくる歌春。ストレスあるのかしら?

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