
江戸以来の寄席の伝統と雰囲気を現代に伝える新宿・末広亭。10日ごとにプログラムが替わり、昼と夜とでも異なるから1か月で6番組。1月のみ3部構成なので、1年間で73番組。かつて、73番組全てを見て、記録として残した『新宿末広亭 春夏秋冬「定点観測」』(2000年12月刊)。その著者である演芸評論家・長井好弘氏が、令和の今、再び定点観測に挑む。現役の新聞記者だった当時よりも時間はあるはずだが、体力と気力はどうなのか…? 本連載は、その生々しいドキュメンタリーである。
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一般に演芸好きと言われる人々は、正月の寄席にはあまり行きたがらない。理由はいろいろある。
その1、やたらに出演者が多く、その結果、各自の持ち時間が少なくなる。
その2、とにかく混む。立ち見になることもしばしばだ。
その3、その上、観客の大半が「正月だから一度ぐらいは寄席に行ってみようか」という初心の人たちなので、客席の雰囲気が普段と違うし、ザワザワと落ち着かない。