
農家は「民主党政権のときが一番よかった」
同レポートは、米の生産調整について、「緩和」が望ましいと結論づけている。
「米価が下がり、(生産コストの低い)大規模農家への集約を促すものである。米価下落補てん対策の導入により、生産調整を実施する農家には生産費が補てんされる」(石破レポートから)
皮肉にも石破レポートが公表された直後の09年9月、民主党政権が成立し、同レポートの一部は同党が提案していた米農家への「戸別所得補償制度」に受け継がれた。
当時、福島県天栄村の職員で農政を担当していた吉成邦市さんは、こう振り返る。
「ここ20年で天栄村の米農家の数は約半分に減りましたが、民主党政権のときが一番、米農家の気持ちが上向いた。所得補償は水田10アール当たり1万5000円で、たいした金額ではありませんでしたが、みんな『もう少し米作りを続けてみようか』という気持ちになりました」(吉成さん)
だが、12年に自公政権に代わると、戸別所得補償制度は「バラまきだ。農地の集約化の妨げにもなる」という与党議員の声を受けて廃止された。
大規模農家「限定」は危機を招く
いよいよ、長年の計画が実行に移されるのだろうか。
石破首相は7月1日、政府の「米の安定供給等実現関係閣僚会議」で、25年産米から増産する方針を示し、「生産者のみなさまの所得が確保され、不安なく増産に取り組めるような新たな米政策に転換する」と述べた。
だが、鈴木さんは懸念もあるという。米農家への補償を大規模農家に絞るような石破首相の発言を耳にするからだ。
石破首相は5月19日の参院予算委員会で、「のべつまくなし全て補償するという考え方は本当に米作りを強くするのか」「努力してコストを下げた方々に補償する考え方は成り立ち得る」として、米農家全体への補償には消極的な考えを示した。
「それでは、多くの農家がつぶれてしまう。農村コミュニティーが崩壊し、増産どころか、十分な供給量が確保できなくなってしまう」(鈴木特任教授)