首相官邸に入る石破茂首相=2025年7月22日午前9時47分
首相官邸に入る石破茂首相=2025年7月22日午前9時47分
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 石破茂は、コメ問題に最も通じているだろう政治家の一人だ。農水相時代から事実上の「減反」である生産調整を見直す姿勢を見せていた。「石破レポート」と呼ばれる論文の基礎になったのが東京大学大学院・鈴木宣弘特任教授だ。

【写真】若々しい? 約17年前、農水相時代の石破茂

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米の増産と所得補償が必要だ

「石破氏が首相になる直前、『米の増産と米農家への所得補償が必要だ』と、私にも話していた」

 こう話すのは、十数年前、石破農水相のブレーンを務めた鈴木特任教授(当時は東京大学大学院・農学生命科学研究科教授)だ。

 実際、石破首相は6月2日の参院予算委員会でこう述べている。

「農林水産相を務めたとき、生産調整を見直すべきでは、と提起した。その思いは今も変わらない」

 石破氏が農水相に就任した当時を振り返り、鈴木特任教授はこう話す。

「私の著書『現代の食料・農業問題―誤解から打開へ―』(創森社)を石破大臣は、赤線を引っ張り、何度も読まれたそうです。最初は大臣室で2人だけで会い、『これをベースに農政改革を実行したい』と述べられました」

 そして、2008年9月、石破農水相は「農政改革関係閣僚会合」を組織し、鈴木特任教授は同閣僚会合のアドバイザリーメンバーに就任した。

「努力すれば報われる」金額を

 この本の核となるのが、「米供給モデルによるシミュレーション分析」だ。鈴木特任教授のシミュレーションモデルが農水省に持ち込まれ、精緻な分析が行われた。その分析に基づいて、こう提案が示された。

・生産調整を廃止し、農家が自由に米を作れるようにする。生産量が増え、米の市場価格が下がるので、消費者は助かる。

・米農家に対しては、稲作を継続することに希望が持てるような生産者米価の基準を設定する。もし、市場価格が基準価格を下回った場合は、その差額を農家に直接支払う。

 石破農水相と、特に議論となったのは、基準価格をどのように設定するか、だった。あまりに高い基準価格を設定すると、生産コストを下げる努力の少ない米農家まで税金で支えることになってしまう。努力すれば報われる――そう思えるような基準価格であれば、市場価格との差額を個別農家に支払っても、バラまきにはならないのではないか、という結論にいたった。

 こうしてまとめられた分析結果が、09年9月に発表された、「米政策の第2次シミュレーション結果と米政策改革の方向」、いわゆる「石破レポート」だった。

2008年、農水相時代の石破茂氏
2008年、農水相時代の石破茂氏
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