まず、村上が3年目でプロ初勝利を目指していたという事実。おそらく初回から飛ばしていっただろう。ベンチから見ていれば、五回、六回に微妙な変化も出ていたことに気付いているはずである。そこは何度も修羅場をくぐり抜けているエースとは違う。そして1点差という展開。村上に託して負けてもダメージこそないかもしれないが、じゃあ記録がかかっている選手がいれば、いつも交代できないのかとなってしまう。やはりその試合に勝つための最善策をとりつつ、選手の快挙に手を差し伸べる。その両者を両立させなければならない。一番近くで見ている阪神の首脳陣が決断したことであり、私は支持したいと思う。岡田監督にも決断に迷いはなかったと思う。
こうして、ひいきにしている球団の監督の采配、作戦、選手のプレーに対して、さまざまな議論が出てくることはうれしいかぎりである。私が現役のころは、ファンのそれぞれが監督であり、飲み屋でもああでもない、こうでもないという意見が出ていたと聞く。今も熱心なファンの方々もいるが、そういった声がもっともっと大きくなってほしい。一人でも多くの方々の喜怒哀楽の一部に野球がなってくれれば、と思っている。
東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝
※週刊朝日 2023年4月28日号