写真・図版(2枚目)| 中年の危機に陥ったつるの剛士、40代に入り「自信がなくなった」 その先にあった意外なモノとは?

――次第に、資格取得のための勉強ではなくなっていったと?

 そうです。40代にして純粋な「自分のための学び」が始まった感覚でした。学問の世界は深く、数年学んだくらいではとても底が見えません。学ぶことで知識が増えていく以上に、自分の無知を知っていく。それが不思議と心地よかったんです。まだこんなに知らないことがあるんだと。だから僕は、学ぶ前よりも謙虚になったんじゃないかと思います。

「自分は何者か」中年の危機を迎えて

――キャリアを重ねると、仕事の相手に年下が増えて偉くなったような気分になったり、同じ仕事の繰り返しでマンネリになりがちだったりする人も多いように思います。「学び直しによって謙虚になれた」というのは、ハッとする言葉ですね。

 仕事上では立場が上がってきたように見えても、所属している業界や組織から離れた「ただの人」としての自分を考えてみると、案外、心もとなく感じることがありますよね。僕がまさにそうでした。これまで「おバカタレント」や「イクメン」など、いろいろな切り口で評価されて、仕事をいただくことができた。でも、どれも実態を伴わない感覚があって、僕という一人の人間が世の中に役立つことができるのか、いまいち自信がなくなっていたんです。

 そんなときに心理学を学び始めて、40代から50代にかけた人生の折り返し地点で、自己評価が低下したり、これからの人生について悩んだりする心理状態を「ミッドライフクライシス」(中年の危機)と呼ぶことを知りました。僕も大学入学の頃、その渦中にあったと思います。たまたま心理学を勉強していたことで、自分がどういう状態にあるか、気づくことができた。突然悩んだり、自信がなくなったりして「いったい、どうしちゃったんだろう」と不安だったのですが、自分だけに生じていることではないとわかって、楽になりました。

――同じくミッドライフクライシスに直面している人たちにとって、学び直しは有効な対処法になると思いますか?

 自分の世界を広げる方法の一つとして、いいんじゃないでしょうか。学ぶことが新たな刺激になるし、学問を通じて、自分がこれまでやってきたことを、別の視点から見ることができる。キャリアが立体的になって、拡張していくというのかな。僕の場合は、自信のない体に筋肉がついて、ひと回り大きくなっていくような感覚でした。

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