
米国がイランの核施設への攻撃に踏み切った。混迷の続く中東情勢。今後どうなるのか。臼杵陽・日本女子大学名誉教授に聞いた。AERA 2025年7月7日号より。
【写真】イランの最高指導者ハメネイ師とアメリカのトランプ大統領
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イラン革命が起こってから、とりわけイラクのサダム・フセイン体制が崩壊した後は、間違いなくイスラエルにとっての最大の仮想敵はイランであり続けていました。ネタニヤフ首相は収賄、詐欺、背任の罪に問われており首相を辞任したら有罪判決を受けて収監される可能性もあり、今回の攻撃はネタニヤフの政治生命の延命工作という観点からは非常に有効なやり方だったと思います。そのためにイランが標的になる日が来るとは思っていましたが、こういう形とは想定外でした。ただこのやり方をいつまで続けることができるかというと、時間の問題のような気がします。
イスラエルはユダヤ人国家で世界各地からユダヤ人がきていますが、今1千万人弱の人口のうちイラン出身のユダヤ人は20万人強程度。世代的にも移民から第2世代以降になっています。約10年前にイランに行った際イランのユダヤ系の人に話を聞きましたが、「自分たちは人質に取られているんだ」と言っていました。
イスラエルとイランとの関係をイスラエル国内のイラン系ユダヤ人コミュニティーとの関係で考えた場合に、両国の関係は敵対していると言いながらもユダヤ人を介して一筋縄でいくような関係ではないと言えるのではないかと思います。国家間の対立という側面だけでは見えない部分がある。スパイ的な活動もやりやすいといえばやりやすい。イランの革命体制もその辺はきちんと押さえていてむしろ黙認しているところがあるということはよく聞きました。
今回、イランが湾岸諸国を攻撃する際は事前通告していますが、やはりイランは湾岸諸国との関係は悪くしたくないという強い意向を持っているのは間違いないかと思います。今回のように3カ所核施設を攻撃されたことでイランの中東におけるステータスも落ちていくということで、ある意味では、アラブ諸国の中でイランを支援してくれるような国を繋ぎ留めるという意味も、今回の外交交渉の中には見えてくるところがあります。
その意味では、イランも追い詰められている感じはしますし、事前に通告するというところに典型的に表れているように、湾岸地域における秩序はある程度は保たれるのではないかと思います。ですから今問題になっているホルムズ海峡の閉鎖はやれないのではないかと思います。今の状況を考えるとそれはイランにとって致命的になってくる。今後、国際的な支援がまったく無くなる可能性が出てきますので、それはできないのではないかという感じはします。
(構成/編集部・小柳暁子)
※AERA 2025年7月7日号
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