
幼いころから周囲になじめない孤独なグレース(声:サラ・スヌーク)はカタツムリを愛し、グッズ集めを心の拠り所にしている。ある日、彼女は風変わりな老女ピンキーに出会い──? 前作「メアリー&マックス」から15年ぶりの新作。第97回アカデミー賞長編アニメーション映画賞ノミネートされた「かたつむりのメモワール」のアダム・エリオット監督に本作の見どころを聞いた。





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私の父はいわゆる「ため込み症」で、父が亡くなったときに膨大なものを整理しなければなりませんでした。「なぜ人はものを集めてしまうのか?」と不思議に思って心理学者に聞いたところ、「ためこみ症は自身のトラウマと向き合うためのメカニズムでもある」と言うんです。それをテーマにしてみようと思いました。主人公のグレースは同じように口蓋裂を持って生まれた友人の人生の一部を入れ込んでいます。彼女はいじめも経験したけれど、とても外向的で自信を持った女性に成長した。彼女になにが起こったのだろうと想像して、物語を描きました。
カタツムリは本作で伝えたかったことのメタファーです。触角に触れると中に入り込み、内向的な人物を表現するのにぴったりですし、後で知ったのですがカタツムリは後ろには進めず前にしか進めないそうです。その点もテーマにハマったと思っています。グレースが収集するカタツムリグッズは7千点以上を手作りしました。正直「ため込み症じゃなくてミニマリストを主人公にすればよかった!」と思う日もありました(笑)。

私は生まれつき手がけいれんする症状を持っていて、いまだに円をうまく描けません。祖父も母も同じ症状を持っていました。子ども時代は恥ずかしく思っていましたが、1996年に映画学校で初めて映画を作ったとき、この凸凹して不安定なキャラクターによる物語を「いいね!」と言ってもらえたのです。以来、そのことを自分の創作の美学に取り入れてきました。私は自分の完璧ではないところを受け入れ、抱きしめることができるようになったのです。そして究極的に自分の作品は全てそのことを描いています。自分の、そして他人の完璧じゃないところを受け入れて抱きしめよう、と。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2025年7月7日号
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