性産業と新型コロナ対策の給付金を巡る裁判について、考えてみる(写真はイメージです/gettyimages)
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  作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は性産業と新型コロナ対策の給付金を巡る裁判について。

【写真】判決後に記者会見する原告側の代理人弁護士ら

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 新型コロナウイルス対策の給付金を支給されないのは「法の下の平等」に反すると、デリヘルの経営者が訴えた裁判で、最高裁判所は訴えを退けた。一審からメディアで大きく取り上げられ、裁判支援のクラファンでは800万円以上が集まる注目の裁判だった。SNSでは「こういう判決が、性産業で働いている人への差別を助長する」という怒りの声も大きい。

 とはいえ、正直なことを言えば、私は今回の判決に少しほっとしたのだった。性産業を差別するのか? というお叱りを受けそうだが、そうではない。ただ大前提として、これは接客する女性たちの戦いではなく、業者の戦いだった。その違いはとても大きいように感じるからだ。

 ちなみにコロナ禍では、性産業で働く女性たちも、厚生労働省の雇用調整助成金の対象だった。また、結果的に1人10万円が支給された特別定額給付金はそもそも、所得が減少した世帯に30万円を支給するという立て付けだった。その際、当時の西村康稔経済再生相は、性産業で働く人も対象にすると明言していた。当然のことだと思う。

 書きながら思い出したが、当時、松本人志氏は自身の番組で、性産業やキャバクラで働く女性にも30万円が支給される方針について、「水商売のホステスさんが仕事休んだからといって、普段のもらっている給料を我々の税金では、俺はごめん、払いたくないわ」と言っていた。いったい、あれはどういう意味だったのだろう? 「性産業を利用することを公言していたくせに、女の人のことバカにしてるんだな」と不快に思った自分の感情だけ覚えているが、あの時と今では時代の空気が変わりすぎ、松本氏の立ち位置も変わりすぎ、で、意味がわからなすぎである。

 もとい。あのとき、性産業だけでなく、エッセンシャルワークに従事する多くの女性たちが困窮した。この国の女性たちの「労働状況」「社会的地位」がいかに危ういものなのかを、コロナがあぶりだしたようなものだった。

 今回の裁判は、デリヘルの業者が起こしたものだった。それはつまり、国として性風俗をどのような存在として捉えるかが問われた裁判だったと言えるだろう。

 最高裁判決を読んだ。最高裁は裁判官5人。判決は全員一致のものではなく、一人の裁判官は「違憲」を貫いた。

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