
飯田さんは「出版業界をめぐるクリシェ(決まり文句)には、誤りや疑問符が付くものが多い」と指摘する。たとえば日本の紙の出版市場のピークは1990年代なかばで、その後は減少傾向が続いている。その理由について、漫画喫茶やブックオフ、インターネット、スマートフォン──と、「犯人探し」がおこなわれてきた。だが市場が最盛期に向かいつつあった80年代後半から、町の本屋は年間千店単位でつぶれ始めていた。町の本屋の廃業は「紙の本の売り上げが減った」だけでは説明がつかないのだ。
飯田さんは日本の書店業の基本構造をビジネスモデル、出版流通から説明。町の本屋が生き残るためにいかに闘ってきたかをあきらかにする。そこには出版社や取次との関係、コンビニや外商、図書館、ネット書店など、さまざまな要因が登場する。
「出版業界のデータを見ていくと、売り上げが減り始める前から根深い問題があることがわかってきます。欲しい本が入らない配本の問題、低すぎる利益率、その一方で家賃や人件費は高騰してきた。言ってみれば、パンクしたタイヤで自転車レースをしているようなもの。疲れて走れなくなってリタイアしたように見えますが、そもそもパンクしているタイヤが問題です。タイヤの手当てをしないでドーピングしても目くらましです」
戦後、日本社会は変化したが、町の本屋をとりまく構造は旧来のままだ。そこに目をつぶっていては、本屋は「つぶれていく」一方だろう。
「本屋がまるで自然現象のように『消えた』とは言いたくないんです。どの店にも店主や従業員がいて、忸怩たる思いで閉店や廃業を選ばざるをえなかった。その重みを想像してもらいたくて、厳しいタイトルにしました」
(ライター・矢内裕子)
※AERA 2025年6月16日号
こちらの記事もおすすめ 相方の隣で自己肯定感こじらせ円形脱毛症 ティモンディ前田が赤裸々に語る“魂の叫び