青春の蹉跌と言えば、その通り。しかし、この経験は肥やしとなり、調教に騎乗しているいまに生きている。

 「あの馬を超える馬に乗ったことがない。バネが凄かったし、体の柔らかさやバランスなど、僕にとってサラブレッドの基準、物差しになっています。あの馬の背中にまたがったことは大きな財産です」

 JRA通算570勝の成績を残し、2014年に騎手引退。19年に厩舎を開業すると着実に頭角を現し、いまやトップトレーナーの仲間入り。20馬房のなかで28馬房の実績上位組と互角に渡り合い、本気でリーディングを狙っている。その大黒柱がベラジオオペラだ。

 「これだけ能力があって操作性がいい馬は珍しい。ベラジオオペラがサイレンススズカを上回っているのは操作性の高さ。どんなレースでもできるのでジョッキーは安心だと思う。馬も5歳を迎えて完成形に。トモの甘さも消えつつあります。ただ、ロードカナロア産駒なのでがっしりすると距離が持たないかもしれない。いまぐらいがちょうどいいのかも」

 今年の大阪杯ではGI昇格後、初の連覇を成し遂げ、ジンクスを打破した。今度は大阪杯→宝塚記念という初の連覇に挑むが、追い風も吹く。天候を考慮し、今年は2週間前倒しとなった。暑さにめっぽう弱いベラジオオオペラには大きな恩恵となる。さらに舞台は昨年3着に敗れた直線の長い京都外回りコースから4戦無敗の阪神コースに戻る。

 「雨が降っても少々なら大丈夫。どんな競馬でもできる馬だけど、コースと開催時期の変更は大きい。プラス材料は多いよね」

 1週前追い切りには上村調教師自ら騎乗し、ラスト200mを11秒0とシャープな伸び。「いい動きだったよ。大阪杯前よりもいいかも。操縦性は相変わらずだし、最終調整はカズオ(横山和生騎手)に乗ってもらい、感触を確かめてもらう」と笑みを浮かべた。

 6月15日の宝塚記念。ベラジオオペラが高らかに凱歌を歌い上げる。

(文・山本智行)

山本智行/1964年岡山生まれ。スポーツ紙記者として競馬、プロ野球阪神・ソフトバンク、ゴルフ、ボクシングなどを担当。各界に幅広い人脈を持つ。趣味は旅打ち、映画鑑賞、観劇。高校時代は元巨人・川相と投げ合い、B'zの稲葉浩志とは中高の同級生。好きな馬はオグリキャップ、キングヘイロー、ナリタトップロード。

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