
倉庫や配送の手配で1カ月
中村さんらが加盟する県の米穀小売商業組合は当初、地元の中堅卸売会社に県内ぶんの備蓄米を売り渡してもらえるよう、JA全農に打診した。しかし、「きっぱりと断られました」。
「理由はわかりません。おそらく、JA全農とパイプを持った卸売会社でないとダメなのでしょう」
JA全農は全国トップクラスの大手卸売会社に備蓄米を卸している。
「うちの組合は大手卸売会社と取引のある県内の仲卸業者を探して、備蓄米を受けてもらいました。その際に米を保管する低温倉庫や配送トラックも手配しなければならない。それだけで、1カ月以上かかりました」
入札の備蓄米は倉庫代や送料が上乗せ
随意契約による備蓄米の平均売り渡し価格は60キロ1万1556円(税込み)で、引き渡し場所までの送料は全て国が持つ。一方、中村さんらが購入した入札による備蓄米の、大手卸売会社の販売価格は同約2万2000円(同)で、そこに倉庫代や送料が上乗せされる。
「これらの費用負担は全て米屋持ちで、前払いです。随意契約による備蓄米と比べて、ずいぶん不公平だと思いますよ」
同様の事態は少なくとも九州、四国、沖縄など、他の地方や県でも起こっているという。備蓄米の倉庫の多くが東北にあるため、送料の負担も大きい。
本当に返せるのか、手間や費用は?
「これまでの手間たるや、大変なものでした。それを今度、小泉農水相は『要らなかったら返してください。買い取りますよ』と言う。いったん受け取った備蓄米を返すことが本当に可能なのか、いったいどれだけの手間や費用がかかるのか」
随意契約による備蓄米の放出は、決定から店頭に並ぶまで、確かに凄まじい速さだった。だが、「スピードを重視するあまり、十分な制度設計がされず、『行き当たりばったり』で放出された」と、中村さんは嘆く。
ともあれ、備蓄米は消費者の手に渡りだした。大手スーパーなどに並ぶ令和4(22)年産の備蓄米については、「十分食べられる」という声がSNSに上がる一方、「古米臭がしておいしくない」という声もある。今は価格と珍しさで注目されているが、備蓄米を「おいしい」と食べている人はどれだけいるのか。
もうすぐ店頭に並ぶ令和3年産米はどうなるのか、消費者も米店も日本中が注目している。
(AERA編集部・米倉昭仁)
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