政府備蓄米をレジに持っていく人=米倉昭仁撮影

米問屋頼みの米屋は苦境

 中村さんの店で扱っている米の多くは、問屋から仕入れたものではなく、農家から直接買いつけた米だ。中村さんは「今年も米騒動が起こるのは確実」と予測して、昨年秋から米を買い増ししてきた。

 だが、米問屋に頼る米店も少なくない。昨年秋、米不足はいったん沈静化したが、今年に入ってから再燃し、どこの米問屋も品薄の状態が続いている。

「これまでは、問屋に『米がなくなったから、頼むよ』と言うだけで済んだ。そんな米屋はいま、つらい状況に置かれていると思います」

仕入れ値の高い「江藤米」いまだ届かず

 今回こそ備蓄米の入手を見送った中村さんだが、3月に一般競争入札で放出された令和5(23)年産の備蓄米を4月に申し込んでいる。だが、その米はいまだ店には到着しておらず、入手できるのは6月10日以降だという。

 江藤拓前農水相在任時に放出された備蓄米は仕入れ値が高いため、5キロ3000円台で売らざるを得ない。

「それが到着して店頭に並べる前に、随意契約による『小泉米』が2000円前後でスーパーにバーンと出てしまった」

 中村さんは全国の米店が直面している事態をこう解説する。

「今回の放出に先んじて、春に申し込んだ各地の米屋は、『この米をどうすればいいのか?』と途方に暮れている状況です」

政府備蓄米を買い求める人=米倉昭仁撮影

「買戻し」提案に絶句

 ただし、こうした状況を見越して、政府は「買い戻しを検討している」と表明していた。それについて記者が尋ねると、「買い戻し、ってねえ……」と言って、押し黙った。

 詳しく聞けば、「江藤米」を一介の米店が入手するには、大きな手間と苦労が伴ったという。順を追って説明する。

 政府が3月の2回の入札で放出した備蓄米約21万トンのうち、5月11日までに小売店に届いた米は12.9%にすぎない。

 農水省は5月、「米の不足感を踏まえると、備蓄米の流通に関して一段のスピードアップが必要」としたが、中村さんは、人ごとのような国の姿勢にも怒りをあらわにする。

「国は『備蓄米を放出しましたから、後はあんたら米屋がやってね』という感じで、丸投げでしたから」

行き当たりばったりの「小泉米」

 備蓄米の流通が目詰まりを起こしていることについて、小泉農水相は6月1日、「5次卸とか5次問屋とかあまりにも多い」と指摘した。だが、中村さんの説明は全く異なる。

 3月に放出された備蓄米のうち、約94%を全国農業協同組合連合会(JA全農)が落札した。

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