備蓄米の販売が始まった小売り大手の視察を終え、記者団の取材に応じる小泉進次郎・農林水産相=2025年6月1日
この記事の写真をすべて見る

 随意契約による政府備蓄米の販売が大手のスーパーやコンビニエンスストアで始まった。政府は米店にも備蓄米2万トンを割り当てたが、米店からは怒りの声が上がっている。

【写真】JAと農水省「癒着」の始まり? トラウマの「米価闘争」

*   *   *

米屋をバカにするな

小泉進次郎農林水産相は、我々のことを『町のお米屋さん』と親しげに言っていますが、私には『米屋をバカにするな』という気持ちがあります」

 そう憤りを語るのは東京近郊の老舗米店の店主、中村真一さん(仮名)だ。

「政府が我々に差し出したのは、『これは残り物でしょ』と思わざるを得ない、一番古い米でした」(中村さん、以下同)

 政府は今年3月以降、令和6(2024)年産から順に備蓄米を放出してきた。

アイリスオーヤマが販売を開始した政府備蓄米=米倉昭仁撮影

割り当てられたのは古古古古米

 収穫から時間が経てば、米の質は経年劣化していく。農水省は5月30日に開始した米店向けの契約枠の受け付けを6月2日午後5時で中止したが、今回、米店に割り当てられた備蓄米は令和3(21)年産。新米の食品表示基準に基づくと「古古古古米」だ。

 受け付け開始から締め切りまで、わずか2日足らず。迷わず、中村さんは申請を見送った。

「私の店はおいしくて安心して食べられるお米を提供してきたつもりです。令和3年産米については、『5キロ1800円程度で安いけれど、品質は大丈夫なの?』と懸念するお客さんが多い。クレームが相次ぐような事態になれば、店の信用に傷がついてしまう」

たった2カ月で売れるのか

 今回、備蓄米を申請しなかった理由は他にもある。

 米店を対象とした引き渡し数量は最低「原則10トンまたは12トン」。さらに「買い受け者が8月末までに販売を終了すること」と、期限が農水省から示されている。

「もし、仮に10トンを仕入れたとして、ここまで古い米を約2カ月で売り切ることができるのか。そんな米屋の不安を見越したからこそ、『共同購入も可能』となっているのでしょう。大手スーパーなら売れなくてもかすり傷で済むでしょうが、零細米店にとってはリスクの高い商品です」

 だが、農水省が申し込み受け付けを中止した理由は、米店向けに設定した2万トンの上限に達した可能性があるからだ。

「売る米がない米店は、『令和3年産でも仕方ない』と、申し込んでいるのが実情ですよ」

1968年 米価審議会。会場前に座り込んだ農民団体と警備の警官隊
次のページ 仕入れ値の高い「江藤米」はまだ届かない