
電話でバッティング指導?
長嶋さんが発する言葉は不思議な説得力と、勇気を与える力ありましたね。僕の不調時に長嶋さんから電話がかかってきて、「今そこでバットを振りなさい」と言われたという、笑い話のようなことも実際にありました。実際にバットを構えてみて、電話の向こうの長嶋さんに「それでいいんだ」と言われるだけで、前に進む大きな力みたいなものを与えてもらえたんですよね。きっと頭の中にはベストのスイングをしている僕の姿があって、「それでいいんだ」という言葉の中には「ベストのスイングができれば、どのピッチャーが来ても怖くないよ」というようなメッセージを込めてくださっていたんでしょう。強い力で背中を押されるような感覚になったんです。これは長嶋さんにしか出せないパワーなんだと思いますね。
印象的な言葉はたくさんありますが、最大の思い出は1979年の僕の結婚披露宴でいただいたスピーチです。ライバルである巨人の監督なのに出席していただけました。スピーチの中で「掛布のホームランには大変悔しい思いを何度もしました」「でも郷土の後輩なんです。掛布のホームランに、私は誰にも負けない大きな拍手を送る掛布ファンの一人です」と言ってくださったんです。その言葉を聞いたときは、本気の涙が出ましたし、今でも涙が出ますね。
僕はきっと、長嶋さんがいなければ野球をやっていませんでした。僕が小学4年生から高校を卒業するまでが、ちょうど巨人のV9時代と同時期。長嶋さんに憧れて野球を始めたんです。
長嶋さんは僕にとっても野球界にとっても、大きな太陽のような存在でした。その太陽が沈んでしまった。全身の力が抜けていってしまうような、何とも言えない脱力感、喪失感があります。
今はただ、「僕を野球の世界に導いてくださりありがとうございました」とお伝えしたいです。
(聞き手・構成/AERA編集部・秦正理)
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