兄の性加害のせいで結婚が破談に

 良太の事件の話は地元に知れ渡っていた。それにもかかわらず、良太やその家族を悪く言う人は少なかった。

 「良ちゃんは本当にいい子だったから。都会で悪い女性に引っかかったんでしょってみんな言ってますよ」

 良太を幼い頃から良く知るという60代の女性はそう語る。

 良太は地元の名士の家系に生まれた次男だったが、長男に障がいがあったことから、実質的な長男として両親の期待を受けて育った。妹の麻美(28歳)によれば、一家が育った環境は、男尊女卑の根深い地域だったという。麻美もまた本件の第二の被害者であり、事件の影響で結婚が破談となっていた。

 「兄の事件を聞いてやっぱりな……と思いました。地元では、女性が犠牲になることが当たり前で、性犯罪が起きても女性に責任転嫁される傾向があります。母親や親戚の女性たちも半ばそれを受け入れてしまっているような感じがあるんです」

 そんな地域に嫌気がさし、麻美は現在、東京で暮らしている。

 「今では、田舎で結婚なんてしなくて良かったと思っています」

働いたことがなくても自立した生活は見つけられる

 性加害は加害者個人だけの問題ではなく、加害行為を許容してきた家庭やコミュニティの問題でもある。妻を卑下するといった家庭内での言動は、社会生活にも表れてくる。「私が我慢さえすればいい」という問題ではなく、他人を巻き込んでさらに家族が窮地に陥る結果を招くこともあるのだ。

 確かに、働いた経験がない人が突然社会に放り出されるのは不安かもしれない。しかし、夫の事件をきっかけに仕事を見つけ、自立した生活を手に入れた女性たちも多数存在している。家族に執着するだけでなく、変化している社会にも目を向けてほしい。

(NPO法人World Open Heart理事長:阿部 恭子)

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