夫は妻の親友を手にかけていた
夫が傍聴に来ないでほしいと言っていることは弁護人から聞いていたが、尚美はいてもたってもいられず傍聴に行くことを決意し、私も付き添うことになった。傍聴席にはかつての同僚の姿もあり、尚美は眼鏡にマスクをし、必死に顔を合わせないよう下を向いていた。
「妻に性的魅力を感じたことは一度もありません」
夫による妻にとっては屈辱的な供述が続いたが、尚美に動揺する様子はなかった。そして傍聴を終えると、尚美は諦めたような口調で私に報告した。
「被害者が誰かわかりました。会社で一番仲の良かった伊藤香奈です……」
夫が香奈に興味を抱いていることは気が付いていた。しかし、尚美は香奈の男性の好みをよく理解しており、夫がどれだけ好意を寄せたとしても香奈が振り向くことだけはないと夫に断言していた。
数年にわたってレイプを計画
尚美の夫、良太(30歳)は地方の小さな町の出身で、家族は地元の名士で裕福な家庭に育っていた。幼い頃から成績優秀で、地方の有名国立大学を卒業し、都内の企業に入社した。
良太が一目惚れしたのは、尚美と同期の香奈だった。才色兼備の香奈は、同僚にとっては若干、近づきにくい存在でもあったという。香奈は先輩や上司と親しくしており、良太が近づくチャンスはなかなかな来なかった。
そこで、目をつけたのが香奈の親友の尚美である。尚美は雰囲気も性格も香奈とは正反対で、仕事に情熱を燃やすタイプではなかった。
「早く結婚して仕事辞めたい」
口癖のように周囲にアピールする尚美に、良太はプロポーズし、ふたりは結婚した。同期の中では最も早い結婚だった。
良太はいつも、尚美から香奈の話を聞くことが楽しみで仕方なかった。良太は新居を香奈の自宅の最寄り駅の隣に決めた。良太の思惑通り、香奈はよく自宅に遊びに来るようになっていた。良太はこの頃から香奈をレイプする妄想にとりつかれるようになっていた。
ところが良太はある日、香奈が転職を決意し、まもなく会社を退社すると打ち明けられたのだった。良太は香奈の送別会を企画し、その夜、香奈を自宅に送り届けるふりをして襲う計画を企てた。香奈にとって良太は親友の夫であり、これまで何度も一緒に食卓を囲んできた。良太が送ると言っても警戒されることはないだろうと考えた。
そして、ほぼ計画通り、良太は犯行に及んだのである。すべて、数年にわたって計画された犯行だった。
「どうしてそんな強引なことをしたんでしょうか?」
私は拘置所に収監されている良太に尋ねた。
「好きだと言っても振られるのは目に見えていましたから……。それに、強姦された女性は被害を訴えないと思い込んでいて、まさか、警察沙汰になるとは思わなかったんです……」
良太と話せば話すほど、その感覚のズレには驚かされた。