専業主婦だから離婚できない

 良太には懲役5年の実刑判決が下された。一方、妻の尚美はもはや、レイプされた親友のことなど考える余裕はなかった。良太は多額の示談金を支払わなければならず、弁護士費用の支払いも含めて貯金は使い果たしていた。いずれ、自宅の家賃の支払いも滞る。

 尚美の両親は離婚を急かすが、実家に尚美の面倒を見る経済的余裕はない。離婚して何とかなるならそうするが、専業主婦の選択肢しかなかった尚美にとって、ひとりで生きていける自信はなかった。

 良太は実家の両親が何とかしてくれると言うが、尚美は良太の両親が苦手で、とても自分から連絡する気にはなれずにいた。時間だけが過ぎ、まもなく手持ちの現金すらなくなってしまう……。そんな時、良太の両親が自宅に訪ねてきた。

 「尚美さん、良太が迷惑をかけて本当にごめんなさいね」

 良太の両親は尚美に冷たかったが、自慢の息子が刑務所に行くことになったことで、尚美への態度を急変させていた。

 「尚美さん、私たちが責任を持ってあなたの面倒は見ます。田舎だけれど、うちに来てくれないかしら?」

 良太の両親は、出所した良太に家業を継がせることを決めたのだという。両親からの申し出は、他に頼る当てのない尚美にとって決して悪い話ではなかった。

 尚美は良太の実家に移住し、良太の出所を待つことを決めた。

犠牲になっているという感覚がない

 尚美は密かに裏切られ、公衆の面前で恥をかかされる経験をしたにもかかわらず、夫を許すことができるのだろうか。

 「もう許してます。私たちは最初から、男と女ではなく、家庭を共に築いていくパートナーなんです」

 犠牲になっているという感覚はないのだろうか。

 「結婚と恋愛は別です。結婚したら、どんな時も支えていくのが妻です。夫も子どもができたら変わると思います」

 親友だった被害者に対しては何を思うのか。

 尚美は沈黙を貫いた。

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