ある日の阪神戦、長嶋の打席のときに、捕手・辻恭彦が突然立ち上がり、ミットでパタパタとあおぐような仕草をした。

 当時巨人のベンチでこの光景を目撃した選手の一人は次のように証言する。

「最初は飛んでいる虫が邪魔なので、追い払っているのかと思った。でも、球審の岡田(功)さんもなぜか笑っていて、様子が変だ。そのあと、長嶋さんはショートゴロに倒れてベンチに戻ってくると、『辻がブツブツとうるさいから、一発屁をかましてやった』と笑っていた」。

「辻」「遊ゴロ(遊直も含む)」「岡田球審」をキーワードに調べたところ、70年9月23日と71年7月15日のダブルヘッダー第1試合が該当したが、この2件以外である可能性も含めて(捕手は辻佳紀だったとする関連本もある)、いつの試合かは特定できずじまいだった。この種の年代、日付不明の“ミスター伝説”もかなりの数に上る。

(文・久保田龍雄)

こちらの記事もおすすめ 長嶋茂雄さんの忘れがたき「ミスター伝説(1)」 親友・石原裕次郎の前で“ダブル勘違いプレー”
[AERA最新号はこちら]