
マンション内のトラブルは、時に“限られた”住人たちで運営される理事会を震源地にして発生することもある。理事長や理事らの独断専行ともいえるマンション管理で、住人の対立が深まるケースだ。
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その象徴的な事例が、今年書籍化されて話題を呼んでいる。舞台は東京・幡ヶ谷にある総戸数300戸、築50年を超えるヴィンテージマンション「秀和幡ヶ谷レジデンス」だ。「渋谷の北朝鮮」と揶揄されるほど、理事長らが専横的なマンション管理を進めたことで、住人の怒りが爆発。1200日間にわたる有志と理事長らとの闘争劇が『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』(毎日新聞出版)としてまとめられたのだ。その著者であるノンフィクションライターの栗田シメイ氏が話す。
「最初に秀和幡ヶ谷レジデンスの話を聞いたときは耳を疑いました。マンション内にある54台の監視カメラで住人の入退館などは24時間監視され、17時以降は介護やベビーシッターなどの業者の出入りが禁止されていました。マンションの新たな購入希望者に対しては理事会メンバーらによる面談が必須で、職業や収入、家族構成まで聞かれるのに、選考基準はまったく明らかにされず、多くの人が落とされてきた。売り主と購入希望者の間で話がまとまればマンションは買えるものなのに、理事会が介入してきて契約が成立しないことが多々ありました」
救急隊員が駆けつけられない
秀和幡ヶ谷レジデンスは有志らの活動により2022年に“正常化”を果たしたが、前理事長体制下では通常のマンションでは考えられない数々の“謎ルール”があった。住人が身内や知人を自宅に泊まらせるときには“転入出費用”として1万円が請求され、リフォーム工事は理事会主導で厳しく制限されてバランス釜取り換えの浴室工事が許可されることはなかったという。
理事会の承認を経て入居が決まっても、引っ越しの際には管理人立ち会いのもと、荷物を厳しくチェック。今や自宅でのリモートワークは一般的だが、マンションへのパソコンなど仕事道具の持ち込みは制限されていた。前述のとおり、17時以降は介護事業者さえマンション敷地内に入れないので、Uber Eatsの配達員などは当然のようにシャットアウト。夜間に住人が心臓の痛みを訴えて救急車を呼んだ時には管理人室と連絡が取れず、救急隊員がその住人のもとに駆けつけられないこともあったという。