
「区分所有者のなかには賃貸物件として貸し出している人もいましたが、賃貸での入居者も理事会メンバーによる面接が必須で、落とされることが何度もあったようです。本にも書きましたが、ある賃貸入居者が水漏れを管理人に訴えた際には、“理事長派”の管理人が『オーナーに報告しないように』と念押ししたうえで、勝手に工事業者に発注。後日、数十万円の請求書がその部屋のオーナーに送りつけられました。相談もなく発注したことを管理人に問いただし、そのオーナーが支払いを拒否したところ、それ以降、新たな入居希望者が現れても面接で落とされ、空室が続いたと話していました。そうやって家賃収入が途絶えてしまったオーナーのなかには、飲食店でアルバイトをして家計の足しにする方もいました」(栗田氏)
「自由がない」
なぜ、そんな異常な“謎ルール”がまかり通ったのか。
「通常のマンション管理組合では輪番制などで理事長が1、2年で交代しますが、秀和幡ヶ谷レジデンスでは、当時の理事長が30年近くもその座に固執し、さまざまなルールを作り上げていました。それが長年許容されていたのは、多くの住人が管理組合の活動に無関心だったことが考えられます。年に1度開かれる組合の総会に参加する人は少なく、だからこそ独裁的な理事長が繰り返し再任され、住人を縛り付けるようなルールが増えていったのです」(同)
管理に対する関心の薄さは、多くのマンションに共通する課題だが、その背景にはマンションそのものが有する特殊性がある。集合住宅であるがゆえに、人間関係の悪化は住み心地の悪さに直結しやすい。事実、同書には理事長らと管理人が一体となって一部住人に嫌がらせを行う描写もある。
「住人は『自由がない』と嘆いていました。共用部での行動は、カメラで常に監視されているからです。そのため、理事長交代を目指して活動される住人たちを取材するときは、マンションから遠い喫茶店や集会所など、“理事長派”の目が及ばない場所が指定されました」(同)