
「限界を乗り越えないとスタミナがつかない」
肩、肘は消耗品という考え方が浸透し、先発の負担を軽減するために各球団が救援陣の強化に力を入れ、分業化を進めたのは、必然の流れと言える。だが、前出の元投手コーチは、長いイニングを投げさせることは投手の成長にもつながると言う。
「古い考え方かもしれませんが、キツイと思った時に限界を乗り越えないと投げるスタミナがつきません。僕も現役時代に疲れを通り越して投げている時に、キレのある直球を投げる感覚をつかみましたから。勝負事なので、新庄監督も走者を背負ったピンチの場面で中継ぎに代えたいと思ったことが何度もあるでしょうけど、個々の投手のレベルを上げることに注力している。他球団も見習うべきですよ」
8人態勢の「ゆとりローテーション」
日本ハムも投手に無理を強いているわけではない。先発陣が長いイニングを投げることを可能にしている背景には、「ゆとりローテーション」がある。先発ローテは伊藤、金村、北山、山崎、加藤貴之、古林、達孝太、細野晴希の8人態勢で、エースの伊藤以外の投手は中7日以上の登板間隔を空けることが多い。長いイニングを投げても、肩を休める期間が取れる。これによって実績がある投手だけでなく、若手の成長株たちも実戦で投げるスタミナをつけてきた。プロ4年目右腕の達孝太、2年目左腕の細野晴希は共に今季2試合に登板し、いずれも6回以上を投げて防御率0点台をマークしている。
他球団のスカウトが感服した様子で話す。
「細野は最速158キロの直球が魅力ですが、制球に不安を抱えていた。未完成ながら大きなポテンシャルを持つ『ロマン型』の投手は育てるのが難しい。細野はプロ入りしてから一本立ちするまで時間がかかるだろうなと思っていましたが、今年の投球を見たら、驚きました。制球力が格段に良くなってストライクゾーンにどんどん投げ込んでいる。長いイニングを投げるために少ない球数で打ち取るなど、色々工夫している跡も見られる。彼は日本ハムに入ってよかったと思います」
セ・リーグ球団の元編成担当は、「実戦で球数を投げなければ、本当のスタミナはつかない。佐々木朗希(ドジャ―ス)はその典型的な例でしょう」と言い、次のように指摘する。