撮影:馬場岳人(朝日新聞出版写真映像部)

 私が好きなのは「透かし編み」という技法です。紫のセーターの写真を見ていただくとおわかりのように、編地にポコポコ穴が開いてレースのように見えるのが透かし編みです。
 

撮影:馬場岳人(朝日新聞出版写真映像部)

 パターン化された模様が繰り返されているのがわかりますか? 実は私、この模様を考えるのが大好きなんです。

 編み物を少しでもしたことのある人ならおわかりいただけると思いますが、通常、編み物は製図を見ながらしますよね。

 編み目を一つでも間違えるとあとあとまで響いて模様が崩れるので、最初のうちは製図通りに慎重に編んでいくことが多いと思います。

 私も編み物を始めたばかりのころはそうでしたが、長い間ずっと編み続けているうちに、何も見なくても「こんな模様にするには、こう編めばいい」というのがわかってきて、自由自在に編めるようになりました。

 繊細な模様が好きなので、糸は細めのものを選びます。糸を決めてから、その糸に似合ったデザインを考えることが多いです。

 編み物のいいところは無心になれるところです。編み始めると夢中になってしまい、時間を忘れてしまいます。

 編んでいる最中は完成するのが待ち遠しく、完成すると大きな満足感と達成感が得られます。

 編み物好きな人が頭を悩ませるのが、「編んだものをどうするか」でしょう。

 手編みのニットってかさばるので、全部手元に置いておくのが難しいんですよね。おそらく自分が作ったものに思い入れのある人ほど、どう保管するかで悩むのではないでしょうか。

 幸か不幸か、私は編むこと自体が好きなだけで、編んだものに対する愛着や執着がほとんどありません。

 常に新しいものを編むことに気持ちが向かっているので、誰かに「それ素敵ね」とほめられると、「よかったらもらってくれない?」と言って譲るようにしています。

 とはいえ、材料費がかかっているので、すべて無料で差し上げるというわけにはいきません。材料費分をいただけるのなら、という条件つきになってしまいますが、ありがたいことに喜んでもらってくれます。

 それでもまだまだ編んだものが大量にあり、なおかつ糸の在庫も豊富にあります。私の編み物欲も衰えることがないので、ニット類は増え続ける一方です。

 編み物と言えば、夫の形見のペンケースも私が編んだものです。
 

撮影:馬場岳人(朝日新聞出版写真映像部)

 材料はなんとストッキングです。ポーラ化粧品のセールスの仕事を始めたころ、まだ女性のズボン姿は一般的でなく、もっぱらスカートをはいていたんですね。

 夫に「あなたはお尻が大きいからズボンは似合わない。スカートのほうがいいよ」と言われたこともあり、夫が亡くなるまでは家でもスカート姿でした。

 家では素足でしたが、仕事となるとそういうわけにはいきません。

 昔のストッキングは今よりも破れやすかったので、山のように積み上がった伝線したストッキングを見ていたときに閃いたのが、「これを毛糸がわりにするといいのでは?」ということでした。

 ストッキングを輪切りにすると一本の長い糸になるので、それを使って編んだのがペンケースというわけです。

 夫はこれをいたく気に入って、「もう古びてきたから、もっといいのを買えば?」と言っても、「いいんだ、これが使いやすいから」と終生手放そうとしませんでした。

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