郵便局では、局員が突然死したり自死したりした場合、徹底したかん口令が敷かれるという。遺族が声を上げなければ、実態は外部に伝わらないことが多いため、実際の数字はもっと多い可能性が高いと話す。

 倉林さんによれば、郵便局で局員の自死が増えたのは1990年代に入ってから。かつては、どの郵便局にも同じ局に長年勤務し地域のことを隅々まで把握している「地域密着型」の局員がいた。しかし、90年代後半から「人事交流」という名の下、本人の意に反した配置転換が行われるようになったという。

「新しい職場に適応できず、自死する局員が出てきました」(倉林さん)

郵政民営化

 もともと郵便局は、国の行政機関である郵政省が、郵便、郵便貯金、簡易生命保険の3事業を管轄していた。それを効率的に運営する目的で、2003年に日本郵政公社という特殊法人が設立され、3事業一体の運営となった。しかし、「民間にできることは民間で」との主張を掲げた小泉純一郎首相(当時)氏は、郵政民営化を「改革の本丸」に掲げ、05年10月に郵政民営化法を成立させた。こうして07年に、日本郵政グループ5社(日本郵政、郵便事業、郵便局、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険)が発足した。すると、それと歩調を合わせるように各地で突然死や自死が相次ぐようになったと倉林さんは言う。

「大きなきっかけとなったのが、03年から一部の郵便局で導入が始まった『トヨタ生産方式』です。民間経営のノウハウを取り入れ、全ての作業から『無理・無駄・むら』を排除するシステムで、徹底した時間管理が行われ、職場のプレッシャーは一気に増しました」

 かつては椅子に座って行われていた郵便物の仕分け作業も、「座って作業するのは無駄」として「立ち作業」に変更されたという。

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