電話で話したくない日もあるので「ショートメールに送って」と送ると、あまり良い反応ではない時もあり、とにかく気が休まることはない。
「いつも妹が隣にいるようで、どこかに出かけても気になります」
そう話す女性は、「きょうだいは血のつながった他人」と語る。できることなら、妹と縁を切りたいと。しかし、それはできないと言う。
「私の性格だと思います。どちらが先に倒れるかわかりませんけど、できる限りはやるつもりです」
ひきこもりの兄弟姉妹を追い詰めるものは何か。
先の池上さんは、「ひきこもり状態にある人が生きていくために必要な、国の制度の不備が根本的な問題」と指摘する。
ひきこもり状態は病気や障害と違い、社会の人間関係で傷つけられてきた人たちが家に避難する、生き延びるための防御反応だ。診断や障害認定を受けたり就労したりすることを促す従来の支援では、外に出られない多くの人の根本的な解決になり得ず、本人も家族も行き場がなく取りこぼされてきた。
「制度がないから、行政も支援者もどうしていいかわかりません。結局、巡り巡って、残された兄弟姉妹が、負担を被ることになってしまいます」(池上さん)
池上さんは、ひきこもり状態にある人を、その兄弟姉妹が世話する選択肢も、しない選択肢も、どちらも尊重されるべきだと強調し、こう話す。
「兄弟姉妹にも、守るべき自分の生活や家庭があります。しかし、そんな兄弟姉妹が抱えるしんどさは、社会に想定されていません。だから行政に相談しても『本人や親から連絡をください』と断られることが多く、誰にも相談もできないまま縁を切るべきかどうかの2択を迫られているのが実態なんです」
国は現在、全ての都道府県と政令指定市などに「ひきこもり地域支援センター」を整備し、支援の拠点に位置づけている。ただ、働けない本人が生きていくための選択肢は少ない。