内閣府は2023年、15~64歳でひきこもり状態にある人は全国に推計で146万人いるという調査結果を発表した。特に80代の親が50代のひきこもり状態の子どもの生活を支える「8050問題」が、社会課題として存在する。だが、兄弟姉妹が抱える苦悩は見過ごされてきた。
「かつて、ひきこもりは、親子の問題とか親の責任と言われてきました。しかし、いま起きているのは、親が亡くなったり要介護状態になったりして、兄弟姉妹が親代わりの負担を強いられる現実です」
こう指摘するのは、長年ひきこもりの現場を取材してきた「KHJ兄弟姉妹オンライン支部」支部長で、ジャーナリストの池上正樹さんだ。
民法上、親子や兄弟姉妹は互いに扶養義務を負うが、兄弟姉妹の場合はその程度は低く、経済的な余裕がある場合にのみ生じる。しかし社会の空気として、兄弟姉妹が面倒を見なければいけないという圧力が強い、という。
「直接言われなくても、周囲から兄弟姉妹が世話をするべきだという無言のプレッシャーを感じます。割り切って自分の人生を楽しめればいいけれど、多くの兄弟姉妹は、ひきこもり状態にある本人に対して、自分だけ幸せになっていいのかと罪悪感を抱いてしまいます。だから苦しいし、しんどいのです」(池上さん)
「精神がすり減っています」
約30年ひきこもっている妹の面倒を見ている女性(50代)も、その苦悩を語る。
「妹から毎日来る電話で精神がすり減っています」
妹は20代の時、職場での人間関係が原因でひきこもるようになり、その後、精神疾患も発症した。両親が健在だった時は両親が妹の面倒を見ていたが、父親と母親も10年ほど前に亡くなった。やがて、妹が一人暮らしを始めるようになると、頻繁に電話がかかってくるようになったという。
多い時は1日40~50件。体調不良の訴え、悩み――。
「妹の甘えと、私への依存だと思います」(前出の50代女性)
最近になってようやく、女性は妹と距離を置けるようになり、電話の回数も減った。それでも毎朝、必ず妹から電話がくる。10~20分、日常の出来事がほとんどだ。