
移住してソフビ作家に
「アルゼンチンにはソフビ文化はありません。ソフビは怪獣や妖怪とともに日本のポップカルチャーの代表で、“メイド・イン・ジャパン”であることに価値があります」
と話すセーサルさんの代表作は「セリート」と名付けたオリジナルの南米の妖怪だ。さらに南米に古代から伝わる「パチャ・ママ(母なる大地)」をイメージしトウモロコシやコカの葉、乳房を備えた「パチャンドラ」などの作品を展開している。
「ソフビはプロダクト(製品)でもあるので100%アートではないと思っています。そこも魅力なんです」
キャラクターを創造しスケッチをする部分はアート。その後は自身の持ち味やコンセプトを研究し「どのくらい作れば採算がとれるか」などを計算する企画力が求められる。できあがった成型品をひとつひとつ塗装するとき再びアートになる、とセーサルさん。
「金型のルールを守るデザインを考える必要もあります。でも100%自由だったらそんなに面白くないかもしれません。ルールがあるからおもしろい。ゲームみたいですね」
手に取れるアート
インディーズソフビはカプセルトイ業界からも注目されている。岡田さんの「ゴーヤ怪獣」もセーサルさんの作品もカプセルトイになっている。前出のギャラリーディレクター・山本さんは言う。
「ゴーヤ怪獣をカプセルトイで手に入れてファンになった、という小学生がギャラリーに遊びに来てくれたこともあります。ソフビは壊れにくいので、持ち歩いて一緒に写真を撮るコレクターさんもいます」
山本さんがギャラリーで扱う作品はすべて一点物。これまでの「SOFVI is ART !?」出展作は1万1千円から33万円で、ほぼ完売している。現代美術家の村上隆さんがソフビ作品を発表するなど、アート界にも認知されつつあるが「アート市場としてはまだまだこれからです」と山本さん。
「ソフビ完成まで1年はざら。出来が良くても売れるとは限らない。作家が投じる時間と費用、熱意とリスクに見合う価値まで引き上げたい」
トイやフィギュアではなくあくまでも「アート」としての境界を探っている。
「木彫りの熊ってありますよね。土産物店では千円くらいで売っているけれど、アーティストが作ったものは何百万円にもなる。僕のなかではソフビも同じです。気軽に手に取ってもらえるプロダクトもあれば、一つにものすごい技術と時間をかけて作ったアートもある。ここではハイエンドのものを扱っていきたい」
作家の魂のこもった一点物を手に入れる高揚感もアートコレクションの醍醐味、と山本さん。
「その経験自体がひとつの財産だと思っています」
ソフビの世界はまだまだ熱く広がっていく。(フリーランス記者・中村千晶)

※AERA 2025年5月19日号
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