■期待したエリツィン氏
その夜、カメラは家族とのんびり過ごすエリツィン元大統領の姿を映し出す。幼い孫を呼び寄せ、ひざにのせ、ゆったりと食事をしている。テレビの選挙特番にミハイル・ゴルバチョフ元ソ連大統領(22年死去)がゲスト出演すると、
「うんざりだ! いつまで聞かせるんだ!」
と苦々しそうに吐き出し、チャンネルを変えた。だが、インタビューには終始穏やかな表情で応じた。
「自身の後継者を20人の候補者の中から4カ月かかって選んだ。難しい決断だったが、一度決断したら楽になった。重荷はプーチンが引き継いだ。半年間の助走期間をあえて与えたのだから、大統領代行としての経験を元首として生かせるだろう」
周囲の映像スタッフにも、
「プーチンの当選で報道の自由は確かなものになる」
と語りかけ、新時代の幕開けに期待を寄せた。
一方のプーチン氏は投開票日の夜、支援者らと談笑し、記念撮影に応じている。後日には、執務の合間にプールで泳ぐ姿や「気軽にビールを飲みに行けなくなってしまった」と残念そうに話す姿も記録されている。それらからは、ごく普通の50代を前にした働く男性としての側面が伝わってくる。
だが、マンスキー監督は複雑な思いを抱える。
「私が恩師と再会することを提案したことで、PR映像でプーチンが良い人であるかのような印象の演出につながってしまったことは私の責任であり、悔いている」
(編集部・古田真梨子)
※AERA 2023年4月24日号より抜粋