Vitaliy Manskiy監督/1963年生まれ、ウクライナ出身。全ソ国立映画大学卒。モスクワ・ドキュメンタリー映画祭ARTDOKFEST会長 (c)Vertov, GoldenEggProduction, Hypermarket Film-ZDF/Arte, RTS/SRG, Czech Television2018
Vitaliy Manskiy監督/1963年生まれ、ウクライナ出身。全ソ国立映画大学卒。モスクワ・ドキュメンタリー映画祭ARTDOKFEST会長 (c)Vertov, GoldenEggProduction, Hypermarket Film-ZDF/Arte, RTS/SRG, Czech Television2018
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 ドキュメンタリー映画「プーチンより愛を込めて」が4月21日から公開される。制作したのはヴィタリー・マンスキー監督。初めて大統領に就任した当時のプーチン氏のイメージを、映像で「親身」に変えた人物に今の思いを聞いた。AERA 2023年4月24日号の記事を紹介する。

【写真】ロシア大統領選直前、小学校時代の恩師を訪ねたプーチン氏

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 ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのウラジーミル・プーチン大統領(70)は、戦局が長引くほど「冷徹な独裁者」という印象が増す。その素顔をとらえた貴重な映像で綴(つづ)るドキュメンタリー「プーチンより愛を込めて」が4月21日から、東京の池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺などで順次公開される。なぜ大国・ロシアで20年以上にわたり実権を握っているのか。どのようにして現在の統治体制を築き上げたのか。その原点が映し出されている。

■常に控えめで紳士的

 撮影したのはプーチン氏が初めて大統領に就任した2000年当時、国立テレビのドキュメンタリー映画部の部長だったヴィタリー・マンスキー監督(59)だ。

 映画は、1999年12月31日から始まる。

 ソ連を崩壊に導き、新生ロシアの初代大統領を務めていたボリス・エリツィン氏(07年死去)が、テレビ演説で高らかに宣言した。

「憲法にそって辞任し、大統領代行にウラジーミル・プーチン首相を就任させます。幸福であれ。良いお年を! 良い新世紀を!」

 この時、大統領選挙まで3カ月。後継者として指名された当時47歳のプーチン氏は、立候補表明も公約発表もしないまま、ロシア全土をくまなく巡り始める。

 カメラに映るプーチン氏は、常に控えめで紳士的だ。織物業が盛んなイヴァノヴォでは働く女性たちの声に耳を傾け、クズネツク炭田を訪ねた時は労働環境を熱心に視察する。ロシア入りしたトニー・ブレア英首相(当時)と談笑し、西側諸国からの支持をしっかりアピール。仕事の合間には、真っ赤なバラの花束を抱えて小学校時代の恩師である女性教師を訪ねている。これは、マンスキー監督の提案だったという。

「調子はどうですか?」

 にこやかに言ったプーチン氏は恩師との再会を祝ってシャンパンで乾杯し、記念撮影した。部屋に和やかな空気が流れたシーンは、後日、大統領のPR映像のラストに使われたという。

 プーチン氏は首相時代の99年、2度目のチェチェン進攻を行った。そうした「強硬」のイメージが、映像を通じて「親身」に変化していった。それが奏功し、00年3月26日の大統領選第1回投票で、52.94%の得票率で当選を果たした。

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