
CT検査をすると、明らかに腫瘍と思われるものが映っていました。すでに86 歳でしたから、そんな老人に治療しても無駄だろうとの思いもありましたが、家族や医師たちが親身になってくれるのを見て、そういう厚意に抗うのも違う気がして、抗がん剤と放射線治療を受けることにしました。
治療に関する専門的な話は、ぜひとも中川医師との共著『養老先生、がんになる』(エクスナレッジ)をお読みいただきたいのですが、抗がん剤治療に関しては、もし副作用が強かったらやめてもよいと中川医師から言われていました。幸いにも抗がん剤による副作用もほとんどなく、少しだけ薄くなった髪の毛も、体調とともに今は元に戻ってきています。
60年以上喫煙しているので肺がんは仕方ない
がんになって、こうしたインタビューを受けると、必ず皆さんおっしゃるのが「ご自身が、がんになって何か考え方は変わりましたか?」ということです。「病院嫌い」「検査嫌い」というイメージに加えて、僕が頑なにたばこを吸い続けていたことが理由でしょう。
しかし、考え方自体はあまり変わっていません。先にも述べた通り、病院や検査をまったく受け入れないというわけではなく、必要なとき、すなわち「体の声」が聞こえたときは、病院も検査も受け入れます。
ただ、むやみに病院や検査に頼ることはやはり少し違うと思っています。病院に行くと必ずどこか悪い部分を見つけて、たばこをやめなさいとか、甘いものは控えなさいとか、行動を制限してくるものです。そうした現代の医療システムに巻き込まれたら、もう抜け出すことはできないからです。
また、がんという病気に対しては、以前よりもいろいろと考えるようにはなりました。肺がんには小細胞肺がんと非小細胞肺がんがあり、今回、僕が診断されたのは〝小細胞肺がん〟でした。小細胞肺がんは喫煙者に多い肺がんです。何しろ、60年以上にわたってたばこを吸い続けてきた身ですから、身から出たサビ。あれだけたばこを吸い続けていれば、いつかは肺がんになるのは当たり前ということです。