
5年前の心筋梗塞から奇跡的に回復した養老孟司さん。本の執筆、ライフワークの虫の研究と精力的に活動していた中で、昨年がんが見つかりました。がんとともに生きる今の生き方とこれからの人生について思うことを伺いました。「朝日脳活マガジン ハレやか 2025年4月号」(朝日新聞出版)より抜粋して紹介します。
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再び「体の声」が聞こえ、肺がんが発覚
2020年6月、体調不良が続いたことから東京大学医学部附属病院で診断を受け、心筋梗塞が発覚。病院の適切な対処のおかげで、元の生活に戻ることができました。それから4年後の24年の5月、今度は肺がんが見つかりました。
実は、1年以上前から肩の痛みが続いていて、鍼灸師の資格を持つ娘に肩をもんでもらったりしていたのですが、痛みが徐々に背中のほうにも広がってきました。昆虫の標本づくりのため、何時間も同じ姿勢で手だけを動かしているので、肩こり程度でしたらしょっちゅうありましたし、病院に行くほどのことではないと思っていました。しかし、痛みが背中へと広がり、寝ているときも痛みを感じるようになって、いよいよこれは単なる肩こりではないと思うようになりました。
できるだけ病院には行きたくない僕ですが、一つだけ決めていることがあります。それが「体の声」を聞くことです。まだ医学部の学生だったころ、教授から「軽い症状であっても、1週間様子を見て、症状が消えなかったり、悪化しているときには、病院に行くべきだ」と教わり、これを「体の声」と呼んでいます。心筋梗塞のときの体調不良に続いて、昨年の肩こりと背中の痛みという「体の声」が聞こえてきたのです。ただ、それでもグズグズしていると、娘がしびれを切らして心筋梗塞の際もお世話になった東京大学医学部の中川恵一医師に連絡、しかたなく病院に行くことになりました。