「私にだけ見せる弛緩しきった顔」を愛せるか

 もちろん、外でへこへこ、家でDVよりはずっといい。彼にとってオンである仕事に対してオフである恋人との時間は心が安らぎ、気を抜ける時間と思えば、「私にだけ見せる弛緩しきった顔」を愛しいと思えるかもしれません。そういうのを愛しいと思える人はおそらく男にも女にもいて、かつて私に「みんなは強いと思っている君の弱々しい側面を僕は受けれたい」とかキモイことを言って包容力をアピールしていた男を筆頭に、社会的なイメージとは違う素顔を見られる自分は特権的な立場だと思えるのでしょう。

 もしあなたがそういうタイプなのであればこのお便りは発生していないと思うので、おそらく、仕事の顔とプライベートが多少違ってもいいけれど、ちゃんとプライベートでもいいところを見せてほしいしかっこいいところを見たい、と思うタイプなのではないでしょうか。私もそうです。バンドマンやホストなど、表に出る際にビジュアルを気にする職業の人と付き合っていた際、家でジャージにヒゲを生やした姿ばかり見せられると、ファンの人たちはこの人のかっこいい姿を見られて、何で私は日々こんなに汚いもんを見なきゃいけないのか、と思っていました。表舞台では面白くてプライベートが無口で暗い芸人さんなんかとも付き合いたいと思えません。

 さて、おそらく彼はあなたの前では気を抜いて、普段なら気づくようなことも気づけず、仕事よりずっと腰が重くなり、判断力も瞬発力も鈍くなるのでしょう。そしてそうさせてくれる恋人の存在をありがたがっているのでしょう。そういうタイプの人は仕事や外で多少なりとも無理をしている側面があるわけだから、安らぎの場所は絶対に必要です。そして安らぐことと弛緩しきってポンコツになることは実に紙一重で、おそらく彼が、ほどよく安らいで、しかし仕事時の有能さは生きている、みたいな状態になるのは難しい気がします。

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