まずは「自宅で避難生活」が基本

 そんな火山灰まみれの首都圏から遠方に避難したいと考える人も多いかもしれない。しかし、人口が密集する首都圏から一斉に避難するのは、交通の点からも避難所確保の点からも現実的ではない。火山灰の重みによって木造家屋が倒壊する恐れのある地域以外は、「できる限り自宅などで生活を継続することが基本」になる。

「首都直下地震対策では1週間分の水や食料などの備蓄が推奨されていますが、降灰対策ではそれ以上の備蓄が望ましい。噴火が長引く可能性もあるためです」

 水や食料、防塵マスクや防塵ゴーグルのほか、スコップなど清掃用具もあったほうがよいという。

東日本大震災「災害廃棄物」の10倍の火山灰

 富士山の大規模噴火で予想される火山灰の量は驚異的だ。

 たとえば、2021年8月、小笠原諸島の海底火山「福徳岡ノ場」は、国内で戦後最大級となる噴火を起こした。大量の火山灰のほか、軽石を噴出し、南西諸島に漂着した。

 だが、富士山の大規模噴火となると、この規模をはるかに上回る。「ガイドライン」が想定したのは、江戸時代の「宝永噴火」(1707年)と同規模の噴火だが、桁が違うのだ。

「21年の福徳岡ノ場の噴火の噴出量はせいぜい1億立方メートルだと推測しますが、富士山の宝永噴火はその20倍近い、17億立方メートルです」

 最悪の場合、噴火発生から約2週間後に神奈川県などで30センチ以上、都心でも10センチ程度、火山灰が積もると予測されている。

 処分が必要と想定される火山灰の量は約4.9億立方メートルで、東日本大震災で発生した災害廃棄物の約10倍にあたるという。

噴火の数時間から数日前に兆候

 いまのところ、富士山に噴火の兆候はない。Xデーはいつ来るのか。

 藤井名誉教授は言う。

「噴火の数時間から数日前には何らかの兆候がまず間違いなくとらえられると思います」

 だが、それ以前は「普段と違うことが起こっても、それが噴火につながるのかはわからない」という。

 さらに、最悪のケースについても知っておきたい。宝永噴火を超える、超大噴火の可能性だ。有史以前には宝永噴火より大きな噴火が何回も起こった。

「噴火はいつ起こるかわかりませんが、噴火すれば、その影響は広い地域ですぐに表れる。平時からの備えが重要です」

(AERA編集部・米倉昭仁)

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