インバウンド客にも大人気の富士山(撮影/米倉昭仁)

マスクやゴーグルが必須

 交通の手段がなくなり、徒歩で帰宅しようとする人々は、降り注ぐ火山灰にまみれることになる。火山灰は鼻やのど、気管支、肺などを刺激し、呼吸がしづらくなる。特にぜんそくなどの呼吸器疾患を持つ人は、発作を起こす恐れがある。

 火山灰には「火山ガラス」の破片が多く含まれており、目に入れば、角膜を傷つける恐れがある。鹿児島出身で降灰を経験したことのある男性は、「目がチクチク痛かった。ゴーグルで目を覆わないと防げない」と話す。

「マスクは必須ですし、コンタクトレンズを入れているなら、外したほうがいい。目を守るためのゴーグルは事前に準備しておかないと、対応は難しいですし、マスクは品切れになってしまうことも予想されます」(藤井名誉教授、以下同)

断水に水道局も対策、広域停電のリスク

 降灰地域では、「断水」の恐れもある。火山灰にはフッ化水素、塩化水素、二酸化硫黄などの「火山ガス」成分が付着している。浄水場に降り注げば水質は悪化する。浄水場の処理能力を超えれば、飲用が難しくなる。東京都水道局では、浄水場のプールのような施設に「ふた」をする対策を進めているという。

 ライフラインを維持するうえで、藤井名誉教授が最も心配するのは「広域停電」だ。

 送電線には電線から鉄塔や電柱に電気が流れないようにするため、「がいし」と呼ばれる陶磁器製の絶縁器具が使われている。がいしに火山灰が付着して雨に濡れると、絶縁性能が低下し、停電してしまう。

「東京湾岸には火力発電所が集中していますが、その吸気フィルターが火山灰で目詰まりしてしまう。フィルターの交換が追いつかない場合も停電する恐れがある」

停電すれば病院機能の停止も

 停電すれば、鉄道や携帯電話の基地局、水やガスを送り出すポンプも止まる。病院の医療機器も使えなくなる。非常用電源があっても、通常は3日が限度だ。

「高齢者や病人など、火山灰の間接的な被害で命の危険にさらされる人もいます。電気の確保は重要な課題です」

 たとえば病院の機能が停止すれば、患者は医療を受けられる地域に避難しなければならない。スムーズな移動を実現するうえで、カギになるのが道路の確保だ。

「緊急輸送路」は噴火から4日目の朝

 3月の「ガイドライン」は、噴火から4日目の朝に「緊急輸送道路」の火山灰の除去が終了する、とした。しかし、この想定には人員や資機材の確保・配置、燃料の補給体制、事故・放置車両の撤去などが考慮されていないため、実際の除去作業にはさらに時間がかかるだろう。

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