雄大な富士山は日本人の心象風景のひとつでもある。富士山噴火に備える動きが進んでいる(撮影/米倉昭仁)
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 富士山が噴火すると、各地の被害はどれほどか。被害を最小限にするためにはどうすればよいのか。今年3月、内閣府は富士山噴火の「降灰」に関するガイドラインを公表した。首都圏に暮らす人も内容を知り、備えておくことが肝要だ。

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富士山噴火で「火山灰警報」

 富士山で大規模な噴火が発生すると、いったい何が起こるのか。

 気象庁の有識者検討会は4月25日、3月に公表された「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」に基づき、「火山灰警報」の導入を提言した。

 富士山が噴火しても、首都圏ならばそこまでの影響はないだろう。そう考えているかもしれない層に、同検討会座長で、内閣府の「首都圏における広域降灰対策検討会」の座長も務めた藤井敏嗣東京大学名誉教授はこう警鐘を鳴らす。

「確かに溶岩流や火砕流は、東京には到達しないと予想されています。けれども、安心できるわけではまったくありません」

噴火後1、2時間で東京の空は暗くなる

 藤井名誉教授によると、富士山が爆発的に噴火して上空8000メートル以上に達した噴煙は、ジェット気流によって非常に速い速度で東へ移動するという。

「噴火後、わずか1、2時間で東京の空は夕方のように暗くなり、火山灰が降り注ぐでしょう。都市機能はまひします」(藤井名誉教授)

 藤井名誉教授が強調するのは、「火山灰」の恐ろしさだ。

 火山灰が降り積もると、首都圏でも甚大な被害が出ると予想される。

鉄道は停止、道路も渋滞

 まず、影響が出るのは市民の足である鉄道だ。

「0.5ミリ程度積もっただけで地上路線の運行は停止せざるを得ないでしょう」(同)

 火山灰がレールを伝わる電気信号を遮断し、信号機や踏切を制御する装置に誤作動を起こす恐れがあるためだ。

 火山灰が降っている間は見通しがきかず、車の運転も困難になる。たとえ、降灰が止まっても道路に火山灰が1ミリ以上積もった場合、車が出せる速度は30キロ程度。視界不良やスリップの危険性から渋滞が発生する。

 車の運転も困難になる。道路に火山灰が1ミリ以上積もった場合、車が出せる速度は30キロ程度。視界不良やスリップの危険性から渋滞が発生する。

帰宅困難者が大量に

 電車が止まり、バスもタクシーも使えなくなれば、日中であれば、都心は帰宅困難者であふれるだろう。

 再開までの道のりも、遠そうだ。

「鉄道の運行を再開するにはレールに積もった灰を人海戦術で除去するほかない。しかし、公共交通機関が止まった状態で首都圏の鉄道網を維持できる人員を集められるのか、疑問です」(同)

 さらに心配されるのが、帰宅困難者たちの状況だ。

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