吉本が非情だったとは考えにくい

 現段階では、私自身は今回の件について吉本興業が特別に非情な対応を取ったとは考えていない。なぜなら、一般論として、タレントが事務所と連携せず、独断で公的な問題について謝罪動画を発表することは明白な問題行為にあたるからだ。

 芸能界では、タレント本人の活躍は、マネジメント会社の支援や多くの取引先との調整の上に成り立っている。売れっ子であればあるほど、その背後には数えきれない利害関係者が存在しており、それぞれについて細かく対応をしていかなければいけない。

 タレントに不祥事が発生した場合、事務所は即座に動き、活動休止の方法や時期、損害賠償リスクの調整などを慎重に進める必要がある。こうした手続きや交渉は、時間も神経も使う泥臭い作業である。

 そのプロセスの途中でタレント本人が独断で謝罪動画を出してしまえば、せっかく築きつつあった交渉の土台が一気に崩れ、取引先との関係構築をやり直さなければいけない。金銭的にも信頼関係においても大きなダメージを負う可能性がある。

 たとえば一般企業においても、重大な不祥事対応の最中に、当事者社員が会社に無断で取引先に直接謝罪に行けば、誠意があるとみなされるどころか、組織全体を危険にさらす身勝手な行動として厳しい処分を受けることになるだろう。それと同様のことが起こっていたのではないかと推察される。

 芸能マネジメントの世界においては、そもそも事務所とタレントは雇用関係ではなく、マネジメント契約によって成り立っている。その契約は当事者同士の信頼が前提となっているものなので、信頼関係が破綻すれば、その関係は解消される。彼らが交わした契約書にもおそらくそのことは明記されているはずだ。独断行動はマネジメントの根幹を揺るがす行為であり、事務所側が強く問題視したのは当然である。

吉本は多くを語っていない

 くるま自身が契約解除に至る経緯を詳細に語っているのに比べて、事務所側があまり多くを語っていないため、くるまに対する同情が高まるのは自然な流れであり、ファンの気持ちもよく理解できる。

 ただ、事務所側は業務上の都合で裏の事情を表に出さない(出せない)だけであり、彼の件も含む一連のオンラインカジノ騒動について、水面下では違約金交渉や取引先対応などで膨大な負担を背負っていたはずだ。それが見えていないからといって、くるまの見解だけを聞いて事務所側を一方的に悪と決めつけるのは早計である。

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