心に小さな傷が積もる

 こうした憤りを理解できる仲間は、コミュニティーの中にはいないようだ。

「大したことではないんですけど、心に小さな傷が積もっていく……」

 積み重なったダメージは大きいようだった。それでも、父や母と暮らしていたころより幸せだという。

 一通り話すと、杏さんはフッと笑った。

コメディとホラーの中間を生きている

「私は昔から、映画の撮影スタジオがあって、コメディーを撮る現場と、ホラーを撮る現場の中間を生きてるんじゃないかって感じていたんですよね。喜ぶこともできないけど、悲観しきることもできない。本当はこういう話も、面白おかしく話したいと思っていたんです」

 吐き出したことでスッキリしたらしい。

 そんな杏さんは、ゆくゆくは人を癒やす仕事に就きたいという。その日も、勉強中の本をバッグに入れていた。親の人生ではなく、自分の人生を歩み始めているのだ。

「私は、温泉みたいな人になりたいです。すべてをのみ込むくらい、湧き出る温かい温泉に」

 照れたように笑う杏さんの姿に、どこか明るい未来を感じた。

(構成/インベカヲリ☆)

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