日本球界はどうだろうか。ロッテの石川柊太が4月23日に登録抹消された。報道によると、吉井理人監督は「今はやりの、お父さんリストみたいな感じです」と石川が妻でタレントの大場美奈さんの出産に立ち会うことが理由であることを明かしている。

 ただ、NPBには「父親リスト」にあたる制度はない。今回はロッテ側が配慮した形だが、制度的なものではないため、登録抹消されると、1軍登録日数にカウントされないため、FAの取得日数に影響を及ぼす。

 日本プロ野球選手会もこれまで動いてこなかったわけではない。21年にNPBとの事務折衝で、産休や忌引にあたる慶弔特例を申し入れたが、現在も実現はしていない。大谷の「父親リスト」が話題になったのを受け、選手会は制度化の実現を再度働きかけるという。

 メジャーでは「父親リスト」と共に、「忌引きリスト」がある。選手の肉親や配偶者に死去やケガなどがあった場合に一時的にチームを離れるために適用される制度で、3~7試合の間で公式戦に出場する26人枠にカウントされなくなる。

 昭和から平成にかけてNPBでプレーした球界OBは「僕らが現役でプレーした時代は野球に専念するため家族の時間は犠牲にするという考え方が浸透していました、出産に立ち会えなくても仕方ないという考えでしたね。先輩たちからは『この世界で成功するためには、家族と一緒にいる時間を削らなければいけないし、親の死に目に会えないことを覚悟しておいたほうがいい』と言われました」と振り返る。

 実際、親の死に目に会えないことは決して珍しくなかった。中日阪神楽天で指揮を執った故・星野仙一氏は、阪神の監督時代だった03年に18年ぶりのリーグ優勝を飾り、9月15日に本拠地・甲子園で歓喜の胴上げを行ったが、実は2日前の13日に母・敏子さんが91歳で天国に旅立っていた。

 「星野さんはお母さんが亡くなられた翌日、遠征先の名古屋から大阪の葬儀場に向かいました。優勝争いの真っただ中で周りに気を遣わせたくなかったのでしょう。優勝するまでこの件は公表しないように伏せられていました」(当時の阪神を取材したスポーツ紙記者)

 星野氏の気遣いは美しいが、家族の死に目に会えないことを「美談」とする時代は、もう終わりにしないといけないだろう。

 日本でかつてプレーした助っ人外国人は、「日本が大好き。人も優しいし治安が良くて住みやすい」と語りつつ、受け入れられないことがあると漏らしていた。

「仕事に向き合う真面目な姿勢は見習わなければいけないけど、一番大事なのは家族だよ。妻の出産や家族の不幸に立ち会えない文化は見直すべきだと思う。家族のサポートがあって選手はプレーできているわけだから」

 以前から助っ人外国人が妻の出産に立ち会うためチームを離れ、帰国することはしばしばあった。世界的に見れば、家族の幸せと仕事を両立するのが常識の時代になっている。日本のプロ野球界も新たな制度の導入を、本格的に考えるべき時だ。

(今川秀悟)

[AERA最新号はこちら]