
──同じく祖父が横綱(第48代横綱・大鵬)だった王鵬(関脇/6勝9敗)は負け越しました。
13日目に大の里に勝ったような、どんどん前に出る、攻めの相撲を磨いてきています。守りも完璧だった祖父との比較を、いまの王鵬にいきなり求めるのは酷ですが。来場所は平幕にいったん落ちるけど、攻め切る相撲を貫ければ年内に大関の可能性も出てくると思います。まだ25歳。将来性を感じています。
私はファンの皆さんに、「いま幕内に10人ほどいる20代半ばまでの力士に注目してください。自分が見いだした力士を応援すると楽しみが増えますよ」といつも言うんです。
──たとえば注目は。
尊富士(前頭6/9勝6敗)はスピードに溢れた取り口で、この先、三役は間違いないでしょう。ただ、相手に組み止められたときに次の攻めが欲しい。また相撲がもうかなり「出来上がっている」印象です。三役の「そのまた上」となると、なかなか厳しいですね。
新入幕で敢闘賞をとったウクライナ出身の安青錦(前頭15/11勝4敗)はまだ21歳。決して顎を上げない真っ正直で一途な相撲っぷりは絶賛してもいいほどでした。地味な存在ですがモンゴル出身の阿武剋(前頭12/10勝5敗)も地力があり、幕内上位でこれから存分に力を発揮しそうです。
もう一人注目は十両優勝した草野(14勝1敗)。大物感のある力士ですね。今年最後の九州場所ではもう幕内上位、三役もあり得ます。
──22歳の熱海富士(前頭8/6勝9敗)はどうでしょう。伸び悩んでいるようにも見えます。
いちばん注目し、そしてがっかりしている力士です。苛立ちさえ感じています。同じ世代の平戸海(前頭6/9勝6敗)があれだけ一途な相撲をとり、ファンの心を惹きつけているのだから、熱海富士は大いに反省して、猛稽古して、大化けしてほしい。そう檄を飛ばしたい気持ちです。
──若い世代の躍進の一方で、40歳の玉鷲(前頭7/10勝5敗)も光りました。
忘れてはいけない存在ですね。若々しい相撲は、どれだけ褒めても褒めきれないくらい。自分からはたいたり引いたりする姑息な手段はまったくとらないところも玉鷲の素晴らしいところです。
──三役では、優勝経験もある阿炎(小結/6勝9敗)は初日に強烈な突き押しで豊昇龍に土をつけましたが、負け越しました。
突っ張りという素晴らしい武器を持ちながら、それに徹することができず、すぐに引いてしまうのが彼の悪い癖です。だからいいところまで行きながらいつも後半、優勝争いから脱落してしまう。
同じことは今場所、豊昇龍や琴桜に土をつけ、勝ち越せば殊勲賞有力だった一山本(前頭4/7勝8敗)にも言えます。一気に前に出る力を持っていながら「そのあと、引いてしまう」ことを相手に読まれているから逆転を許してしまう。
私は記者席の周りで相撲を見ているファンによく言うんです。「簡単に1、2秒ではたいて勝ったような力士には拍手しなさんな」と。そういう力士は伸びません。たとえ体が小さくても関脇、大関を目指していくような力士は、がむしゃらに前に出る相撲をやり切りますよ。そういう姿が、ファンの共感を呼ぶわけだから。