
大阪地検の元検事正が、酒に酔った部下の女性検事に性的な暴行を加えた事件。被告は「無罪」を主張している。背景に何があるのか。性犯罪をなくすためにはどうすればいいのか。上谷さくら弁護士に聞いた。AERA 2025年4月14日号より。
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性犯罪は、加害者・被害者ともに性別を問わずに生じますが、職場での性犯罪は一般的に、加害者は権力を持った男性、被害者は立場の弱い女性が多いです。傾向として、加害者はまず大人しくて声を上げなそうな相手を狙います。そこで成功すると、今度は声を上げそうな相手をターゲットに定め、泣き寝入りさせることに快感を覚えていきます。
2023年に改正刑法が施行され、同意のない性交等は「不同意性交等罪」で罪に問われるようになりました。しかし、加害者側に罪の意識が全くないことは少なくありません。今回の事件で、元検事正は「(女性検事の)同意があったと思っていた」という供述をしていますが、本気でそう考えていた可能性もあります。それが、当事者の関係性や客観状況から「さすがにあり得ない」と思われる場合でも、刑事裁判で「加害者は同意があると勘違いしていた」と認定され、無罪になるケースもあります。
性被害に遭った場合、なかなか声を上げられないのはむしろ普通です。背景にあるのは諦めの気持ち。「君に代わる人は山ほどいるけど、加害者がいなくなったら会社が潰れる」など暗にほのめかされるのです。被害者も、自分のせいで会社が潰れたら迷惑がかかるから自分が身を引こうと考え、泣き寝入りするケースはとても多いです。
被害者の情報が洩れることも少なくありません。職場の相談窓口で信頼できる人に話したはずなのに、会社中の噂になり二次被害に苦しみます。そうした環境では、被害に遭っても黙っていようと考える悪循環が生じます。
性犯罪を防ぐのに、「アクティブ・バイスタンダー」という考え方が提唱されています。「行動する傍観者」です。例えば、同僚が性暴力やセクハラを受けている場面を目撃したら、その場では直接何もできなくても、写真や音声で状況を記録したり、後から「大丈夫?」と声をかけたりすることです。無理をせず、自分に出来ることをしよう、ということです。そのような行動が増えれば性犯罪も減るはずです。
そして性犯罪をなくすには、国民の意識が変わることが必須です。意識とは、「嫌なら抵抗できたはず」「隙があった」という被害者への偏見や、「このくらい大したことない」という加害者の驕りです。法律がどう変わっても、この意識が変わらない限り被害者は声を上げられません。
偏見をなくすには教育しかありません。しかし現在、性的な関心が高まった時期に、適切な性教育を受ける機会がなく、アダルトビデオ(AV)を教科書代わりにしている人がたくさんいます。その結果、「相手が嫌がっていてもぐいぐい押せば喜ぶ」という誤った発想に染まってしまうのです。
相手が嫌がることをしてはいけない。つまり、「相手がイエスと言わない性的行為は性暴力だ」と、小学校就学前から年齢に応じた教育を徹底する。そうした体制を、大人が整えていかなければいけません。
(構成/編集部・野村昌二)
※AERA 2025年4月14日号