
原宿~表参道間は「大谷一色」
午後は渋谷と原宿で取材がある。昼すぎ、電車に乗るために家を出て、駅前の書店に立ち寄った(新刊チェックのための日課だ)。雑誌コーナーは足を止めるともなく通りすぎただけだったが、その一瞬で大谷を表紙にした雑誌が3冊、目に入る。ちなみに、後日都内の大型書店で確認すると、スポーツ書コーナーには大谷が表紙の雑誌やムックが9種類、大谷をテーマにした書籍が19タイトルも並んでいた。
この日は駅前の大型サイネージなどでは大谷の姿は見かけなかった。それでも、街中を歩くといたるところに大谷がいる。朝寄ったのと同じコンビニチェーン、赤い銀行、自動販売機、アメリカに本社を置くシューズメーカー。ジャケット姿でカードを持つ大谷、スポーツウエアを着てバットを構える大谷、ユニフォーム姿の大谷。笑顔の大谷、遠くを見据える大谷、決め顔の大谷……挙げていけばキリがない。
と、すぐ近くで「背番号17」が信号待ちをしているのが目に付いた。ユニフォーム風のTシャツを着た外国人。「オオタニさん」と声をかけると、「He is awesome.」(多分そう言った)と返してくれた。この日東京は暖かったが、それでもTシャツ1枚は寒くないのか。
原宿から神宮前交差点、表参道への通りを歩くと、そこは大谷一色だった。街灯の一つ一つにぶら下げられているコスメブランドの広告はすべて大谷。広告で大谷を起用している化粧品のポップアップストアが開かれ、「サンプルお配りしてま~す」と呼び込みがされていた。爽やかな大谷の大看板が異彩を放つ。もう、このあたりで正確に数えるのを諦めたが、通りにいた大谷を仮に30人とすれば、今日ここまでで、既に64人の大谷に出会ったことになる。
大谷が広告契約を結ぶスポンサーは20社以上に上るという。コンビニ、銀行、コスメブランドなど、野球や大谷のパーソナリティーと直接結びつかない会社まで、こぞって大谷を起用している。野球とは無関係の企業まで大谷を起用する背景について、マーケティングコンサルタントで桜美林大学准教授の西山守さんはこう語る。
「大谷選手は、今の日本で全世代にアプローチできる唯一無二のスターです。情報メディアが細分化され、タレントの不祥事も相次ぐなか、安心して起用できてこれほどブランド価値を高めてくれる存在はほかにいません。加えて、かつては近寄りがたい超人という印象がありましたが、昨年結婚し、妻の妊娠を発表するなど家庭的なイメージもついてきました。食品やコンビニなどのCMにも起用されているのは、こうした新しいイメージも影響していると思います」