
12歳という子どもが立ち向かう中学受験には、「光」ばかりでなく「闇」もある。親が必要以上に子どもに勉強を強いる「教育虐待」という言葉も一般的になったが、そういう時、親はどのような心理状態になっているのか。当事者を取材した。
※【前編】<中学受験で「教育虐待」してしまった親の悔恨…大切な一人娘が“円形脱毛症”になった日>より続く
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中学受験において「教育虐待」が起こってしまう背景について、『受験で子どもを伸ばす親、つぶす親 知らないうちに「教育虐待」をしていませんか?』(ディスカヴァー携書)の著書もある精神科医の和田秀樹氏はこう語る。
「中学受験について知識がない親が多すぎます。一部の親は中学受験が全てだと思い込み、『トップレベルの中高一貫校に行けなければ東大や国公立、私立の難関大に行けない』という強迫観念に駆られています。それを子どもにも刷り込ませて勉強させようとするから、教育虐待のようなことが起こるのです。第1志望の中学に行けなくても、その後の勉強法で東大や早慶に進学する道筋はいくらでもありますし、中学受験をせずに公立中に行って、希望の大学に通う子もたくさんいます。中学受験は基礎学力をつける点では良い手段ですし、否定はしません。でも、中学受験を強いられたことで小学生のうちから劣等感を持ち、自己肯定感が下がってしまう子どもが多いのも現実です」
千葉県内に住む50代の女性は、兄と“比較”することで次男を追い詰めてしまった経験がある。
女性は夫と長男、次男の4人家族。夫婦ともに慶應大学を卒業していることから、子どもたちも勉強は得意だろうと思っていた。実際、長男は中学受験で都内の難関中に合格したことから、3歳年下の次男にも中学受験をさせようとした。だが、これがうまくいかなかった。
「次男も小4から塾に通わせたのですが、もともと勉強が苦手だったこともあり、成績は下の方でした。それで兄弟で比べてしまったのが良くなかったと思います。『お兄ちゃんはこんな簡単な問題を間違わなかったよ!』と責める口調が当たり前になってしまい、気づいたら次男から笑顔がなくなっていました」
長男はコミュニケーション能力が高く明るい性格だが、次男はおとなしく内にこもるタイプ。性格も正反対だった。塾通いで友達とも遊べず、塾に行っても授業についていけない……次男はそのストレスを内に溜め込んでしまっていた。