
落語家・春風亭一之輔さんが連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回のお題は「プロポーズ」。
落語家の弟子入り志願は「プロポーズ」とおんなじ。
2001年 4月27日。私は、私の師匠、春風亭一朝のもとへ入門志願に行った。本当は21日から毎日、新宿末廣亭の楽屋口で張っていた。寄席は10日興行なので、ほぼ毎日同じ時間帯に師匠が楽屋口から出てくるのは予想がついていたのだが、声をかけるのに7日かかったのだ(別に楽屋口前に寝泊まりしていたわけではない)。
7日目にして、意を決して「弟子にしてください!」と追っかけていくと師匠はちょっと驚いた風だったが「じゃ、そこの喫茶店で話そうか」と新宿三丁目のバルコニーという店に私を連れて行った(のちに師匠は「刃物で刺されるんじゃないかという勢いだった」と言っているが、よく覚えていない)。
「昨日お会いした川上です」
師匠は紅茶、私も同じモノを注文し、「たいへんだよ」「食えないよ」なんてなことを言われたが、すれっからしの落研だった私は「弟子入りにいくと本当にそういうこと言われるんだな……」と感動しつつ、とにかく声をかけることができた興奮でフワフワしていた。でも初対面なのに「この師匠は俺をいい方向に導いてくれるんじゃないか」なんて勝手なことを感じていた。とりあえず「諦めなさい」とか「俺はとらないよ」とか言わなかったから。「じゃ、また連絡して」と自宅の電話番号のメモを渡されてその日は別れた。
翌日電話すると師匠が出た。「昨日お会いした川上です」「早いね。親御さんも納得してるならまた会うから。そのときに履歴書持ってきて」と、再び上野風月堂で会う約束をした。親は私が噺家になることはすでに諦め半分で説得済みだったので話は早い。