なんにしてもなんにしてもスピーディ過ぎて目が回る。

 協会をあとにして「じゃメシでも食おうか」と近所のラーメン屋に行くことに。道すがら「噺家は厳しいからね。前座のあいだは酒もタバコもダメ、な?」とすでに兄弟子になった朝之助兄さんに師匠がふった。ニコニコしながら「はい」と兄さん。

 ラーメン屋にてまだまだ緊張の面持ちでいると師匠が「生ビール三つ!」と言った。ビールがきて「はい、きみの」と師匠がジョッキを私に差し出した。??? 私はてっきり師匠が二つ同時に飲むのかと思っていた。「山賊みたいな人だな……」と。「お酒ダメなんじゃないんですか?」「まぁ、おおっぴらにはそうだけどね。俺の前なら飲んでいいよ。飲めるんだろ?」「はい」「よかった。じゃあま、これからよろしく」「よろしくお願いします」「かんぱーい」と3人でジョッキを合わせた5月1日の夕方。

「ほんとに落語家になっちゃったなー」

 そのあと3人で師匠の家に行き、女将さんに会ったんだっけかな。名前でも考えるか……みたいなことになり結局その日には決まらず「明日10時にうちに来て」と言われ解散した。電車賃に千円もらった。

 今日あったことが目まぐるし過ぎてもうなんだかよくわからず、千円を握りしめて師匠の家から自分のアパートまで歩いて帰る。1時間半くらいかかったがまるで疲れない。6畳一間の流しにインスタントコーヒーの空き瓶があったので、それに千円札をうやうやしく入れて蓋をしながら、「ほんとに落語家になっちゃったなー(まだ見習いだけど)」とつぶやいた。

 うちの師匠は「弟子入りにきたヤツは最初の雰囲気で大丈夫かどうかはなんとなくわかる」という。そんなもんだろうか。

 私にはまるでわからない。

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