
故・木村伊兵衛氏の業績を記念して1975年に創設された木村伊兵衛写真賞は、各年に優れた作品を発表した新人写真家を対象に表彰し、写真関係者からアンケ―トによって推薦された候補者の中から、2回の選考会によって決定されます。
第49回の木村伊兵衛写真賞の一次審査では6人の作家がノミネートされ、二次審査で受賞者が長沢慎一郎さんに決まりました。最終選考後4人の選考委員(今森光彦氏、大西みつぐ氏、澤田知子氏、長島有里枝氏)に、主に受賞者以外のノミネートされた作品について語っていただきました。
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今森光彦 今回はドキュメンタリー的なもの、自然的なもの、私的なものというように、追求しているものがはっきり分かれました。
澤田知子 推薦された作品が今回少なかったじゃないですか。でもノミネートに残った作品は、接戦だった印象ですね。
事務局 一頭地を抜くような作品がなかったということでしょうか。
大西みつぐ 前年あるいはその前からかもしれないですけれども、候補に挙がってくる、あるいはノミネートされてきた作品がさらにバージョンアップ、あるいは新しい作品として、今年もしっかり並んでいるという事実があります。これは外からよく聞かれるのですが、木村伊兵衛写真賞はアートに流れているのではないか、そんな強い言葉を言われた経験もあるんです。しかし決して一つの方向に流れているわけではありません。これだけ候補に挙がったものに目を通すと、今の日本の写真はものすごく幅があって、そこで特に若い作家の皆さんたちが、かなり真摯に活動しているというのがちゃんと見てとれる。
背景にはもちろん写真のことがある
事務局 映像作品に対してしっかり賞を出して、でもその背景にはもちろん写真のことがあるということは語られてしかるべきですよね。
大西 語ってきたんですよ、ここでもしっかり。
長島有里枝 今年も候補者のうち吉田多麻希さんの作品には映像が含まれていました。これまでの審査でも、映像を含む作品でノミネートされた作家は、写真もしっかり撮れていました。吉田多麻希さんの作品もさまざまな要素の一つが映像で、あくまでも「写真」の展示という印象を受けます。また、何度かノミネートされる人は、年によって作品のボリュームが大きいときとそうでないときがありますね。今年度対象の作品を評価することは大前提ですが、これまでの活動を完全に頭から追い払うことも難しく、たまたま今年はボリュームが少ないよねという議論をした場面もありました。