大西 毎年コンスタントに作品を発表するのは大変ですよ。
長島 受賞するかどうかは作品の優劣だけじゃなく、タイミングも大きいですね。

大西 また写真集という形だとすると、出版社側のいろんな予定、サイクルとも歩調を合わせていかなきゃいけない。作家一人の計画性で、こういうボリュームで作りたい、こうしたいということが100パーセント届くことでもない。難しいですね、その兼ね合いが、タイミングも含めて。写真展の場合は、作家とギャラリーの間でさまざまな調整ができるわけです。写真集はそうもいかないでしょう。いろんな日程に乗っかりながらやっていかなきゃいけないから、やっぱり大変な作業だと思うんですよね。
今森 作家は長い時間をかけて自分のペースでやっていくことになります。そして活動の山場となるようなタイミングで、受賞することが理想だと思います。若手作家を応援する場合は、これからの活躍に期待して、賞が贈られる。今回は、新人賞に値する作品がたくさんあって、絞りにくかったですね。どれも力量があるんで、たいへん難しいです。
長島 将来性も見ているということでしょうか。
今森 そうですね。あと前後とね。
事務局 その点、金川晋吾さんは作品の量的なもの、ペースもかなり精力的に発表しています。
澤田 推薦の数も多いですね。
自分自身が考えていかなきゃいけない問題
大西 金川さんは写真集『father』を、いい意味でもずっと引っ張っていかざるを得ないし、一つのプロセスとして見た場合に、写真集『長い間』もありました。それから写真集『明るくていい部屋』と、ひと続きの金川さんの写真家としての、あるいはその生活信条を含めて、いろいろな葛藤が綴られてきていると思うんですね。彼自身にも問いかけてきているし、写真を見る我々にも問いかける姿勢がある。そこはものすごく僕は評価したいと思ってます。なかなか難しい生活形態かもしれないし、あるいは僕と同じ年齢のお父さんが失踪することに関しても、自分自身が考えていかなきゃいけない問題も突きつけられているわけです。その社会性も含めて、個人の暮らし、家族についてなど、いろんな問題提起はしてると思うんですね。金川さんのその意味での変化というか、継続しながら、そのプロセスの中で作家として少しずつ少しずつ変わっていく。そこに期待をして、この『明るくていい部屋』の続編を落ち着いて見ていきたいなと思っています。
事務局 受賞に至らなかったのは?
大西 『明るくていい部屋』というのは完結編でもない。『father』はなぜか文章も含めて完結してきているんですよ。その説得力はあると思うんです。時間の流れの中で、お父さんの変化や彼自身の変化も含めて、カメラを持たせたりとか、あるいは映画を撮ったりするという中で、ある種の落ち着きどころはあります。ただ、『明るくていい部屋』というのは現在進行形としての暮らしがあるので、それに対して僕らがそれぞれ考えていかなきゃいけない。今の時代の家族の行方、人と人のさまざまな関係性みたいなものを僕らが受け入れ、写真を見ながら考えていかざるを得ない。金川さんもさらに変わっていくだろう。だからもう一つ、これからに期待したいです。