長島 とても力のある作家さんですよね。
澤田 クオリティーが高い。
長島 ですがここまで美しいと、なにかこう、逆に不安な気持ちになるのはなぜでしょうか。
澤田 説明的すぎるのかもしれない。
今森 あまり環境のことが前に来なくてもいいように思いますが......。
長島 なるほど。

今森 この方はたいへん実力があって美意識が高く、生命がないところに生まれる美を発見しているように思います。たとえば標本。標本って死んでいるほうが形や色の違いがよくわかるんですよね。命があって飛んだりしてると全然わからないんですけど、しかばねになるほうが形とか色とか鮮明に出てくる。それを学者さんとやるのはすごく正当で大事なことだと思うんです。環境問題に言及しないピュアな姿勢のほうが、意図を強調できるように思います。
死の問題、環境の問題をしばし考える
事務局 社会性みたいなことを気にしすぎるということですか?
今森 そうですね。標本的なことで言うと、博物学的な視点、まなざしというのが、作品から感じられます。知らないものを初めて見るときの感動ですね。
大西 そうですね。東京・丸の内の商業施設KITTEに日本郵便と東京大学総合研究博物館が協働で運営する博物館があり、そこに行ったときの感じがそのまま吉田さんの展示にも僕の印象としてありました。陳列ケースなどにさまざまな生き物の骨格標本もある。そこで死の問題、環境の問題をしばし考えるけれども、その標本自体のある意味すごみ、リアリティーがあって不思議な気分を誘う。そのリアリティーは画像としてのダゲレオタイプの像に通ずるかもしれない。
澤田 私が説明的って思ったのが、今森さんがおっしゃるストレートに出せばいいのに出してないっていうところかもしれない。最初見たときにすごい好きな作品だったけど、いろいろ話をしていく中で、文章も読むと、ちょっと思っていたのと違うのかなって印象が変わりました。もしかしたら、今森さんがおっしゃったことが私が感じていることに近いのかもしれません。
事務局 上原沙也加さんは、まだ厚みがこれから出ていく作品ではないでしょうか。
澤田 上原さんと須藤さんはそうかな。
長島 単純に、作品がまだ制作過程にあるように見えます。
澤田 もうちょっとボリュームがあればパワーを感じられたかなと思うけど、二人とも今回のノミネートの中ではちょっとパワー不足に見えちゃったかなと思います。
長島 二人とも既に本も出版されていて、それらを見るとやっぱり今回ノミネートの作品にもまだ先があるんだろうな、という印象を受けました。もう少し完成度が上がるのを待ったほうがいいんじゃないか、という。
澤田 今後が楽しみです。